やあ、君か。しばらくぶりじゃないか。
元気にはしているかい? そうか、変わりなさそうで僕も安心したよ。
僕の方も、いたって快調さ。少し恥ずかしいけれど、今日は彼女とデートでね。
これから、海の見えるキレイな公園に行くんだ。
夕日に照らされた顔は、さぞや美しいんだろうなぁ。
ん……? あはは、そうだね。ベタ惚れしちゃってるんだよ、僕ってば。
一目見ただけで、もうどうにもならないぐらい、彼女のことが欲しくなったんだ。
どうにか口説き落とせてよかったよ。僕の熱意の勝ちだったかな。
でも彼女の方も、僕のことを一目で気に入ったって、そう言ってくれた。
今では両想いさ。彼女のいない生活なんて考えられないよ。
……さっきから、何か変な顔をしているね。どうかしたかい?
あぁ、先に紹介しておけば良かったね。済まなかったな。
それじゃあ、改めて紹介しようか。
僕が抱えているこの娘が、その“彼女”だよ。
どうだい、とてもキレイな娘だろう?
彼女が挨拶をしないのは、どうか許してくれないかな。
この娘は恥ずかしがり屋なのか、僕以外の人の前だと、何も話そうとしないんだ。
どんなことがあっても駄目さ。話すのは絶対に、僕と二人きりのときだけなんだよ。
二人きりになりさえすれば、わがまま放題の甘え放題なんだけどね。
今日のデートも、彼女のわがままの一つさ。海が見たいって、ねだられちゃってね。
この娘に頼まれると、どうしても断れないんだよ。情けないことに。
君、驚いた顔をしているけれど……そうか、彼女が小さいからだろう。
そうだね、確かに少女としか言えない年齢の彼女だ。
こうして僕の腕の中に納まるぐらいの、か弱い女の子だ。
だけど、そんなことは全く関係ないよ。
僕らの愛の前では些細なことさ。
僕は彼女を心の底から愛しているし、彼女も僕のことを心の底から愛してくれている。
その愛は、たとえどんな障害でも乗り越えるのさ。
本当に……こうして抱えているだけで、僕は世界で最高の幸せ者だよ。
道行く人たちも、みんなが振り返ってこの娘を見ていくんだ。
まるで目を奪われるみたいに、ね。
君だって、最初は彼女の方に目が行っていたよ。分かるさ、そんなことは。
だけど離さないよ。この娘は僕のものだ。
誰にも、何があっても、たとえ死んでも、僕は彼女を離しはしない。
……ん? あぁ、ごめんよ。そんなに怒らないでくれよ。
例えが悪かったね。君を置いて死んだりするもんか。
僕らはずっと一緒だよ。この愛は永遠のものだから、安心してくれ。
あはは、ごめんよ。死ぬって言ったら、彼女が怒っちゃったんだ。
人前で話すことのない彼女だけど、僕は彼女の考えてることぐらい分かるからね。
目は口ほどにものを言うってね。彼女のことなんだから、すぐに理解できるさ。
……君、まだ変な顔をしているね。
もしかして……君も他の人たちと同じことを言うのかな。
この娘がただの人形だ、なんて。
この娘は生きてなんていやしないって。
ふぅ……どうしてみんな分かってくれないのかな。
僕の頭はいたって正常だし、この娘は確かに生きているのに。
だけど、誰に出会っても、同じことを口をそろえて言う。
目を覚ませだとか、病院を紹介しようかと、失礼きわまるよ。
君は良い友人だからね。そんなことは言わないけれども。
良い友人たちは僕らを認めてくれるんだけど、そうじゃない奴らはいつまでも、彼女を人形扱いする。
そもそも、彼女と出会った店の店主からしてそうだ。
彼女のことを、ただの人形だなんて、あんな所に置いておいて……。
彼女が泣いているのが分からなかったのかな。
だから必死に説得して、彼女を買い上げたんだ。最後まで店主の態度は変わらなかったけどね。
そうさ……生きているんだ、彼女は。
この眼はどうだい。ただのガラス玉にない輝きを放っているじゃないか。
髪だって、こうして梳くと、作り物にない艶やかさと感触を伝えてくれる。
それに僕と口付けた、あの唇の感触も、その温かさも……何もかもが、命に溢れている。
さあ、よく見ておくれ。
君なら分かるだろう?
この娘がただの、命通わない人形なのか。
それとも正真正銘の――生きる人形、リビングドールなのか。
君なら、分かってくれるだろう?
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想