おにぃ

 妹に狐が憑いた。
 
 様子がおかしくなったのは、ここ数ヶ月ほどの間のことだった。
 前は兄である俺に対しても大人しいぐらいの性格だったのが、やけにベタベタとするようになり、身体的な接触が増えた。
人の目があろうがなかろうがお構いなしに、ことあるごとに俺とのスキンシップをねだる。
 初めはそれも、ちょっと明るくなった妹が兄に甘えているだけだろうと、苦笑いで受け流せるレベルで収まっていた。
 ところがそれらのスキンシップは、瞬く間に胸を積極的に押し付けたり、太ももに手を誘導したりといった種類のものへと移り変わっていった。
まるで俺のことを誘惑するような仕草。そしてその発想は正しいものであり、妹は俺を性愛の対象として誘っていた。
 こうなると俺も戸惑う気持ちの方が強くなる。しかし俺の困惑を差し置いて、妹の誘惑は一段と過激さを増していった。
 この頃になると、ブラジャーにパンツといった下着の中に手を差し込ませようとしたり、酷ければそもそも下着も着けていないことまであった。
 からかいの一線を越えかねない悪戯だ。その一線は、越えてしまえば俺と妹が兄妹から男と女の関係になるということでもあった。

 何かこうなった原因があるんじゃないか。
 本当は何かに悩んでいて、俺に助けを求めているんじゃないか。
 ちゃんと事情を聞いてあげることが、兄としての俺の役目なんじゃないのか。

 そう判断した俺は妹を部屋に呼び寄せた。妹は強い期待をして部屋に入ってきていたようだった。
 話を始めると、妹の顔はみるみると失望の表情に変わっていき……今度は必死の形相で訴えた。

 俺のことを愛している。兄妹であるなんて関係ない。もう自分を抑えることなんてできない。俺と結ばれないなら死んだほうがマシだ。

 結果として、俺が妹のためにと思って取った行動は裏目であり、妹の衝動を決壊させることに他ならなかった。

 妹は俺を押し倒し……俺たちはその夜、セックスをした。
 妹の体からは、青く揺らめく炎のような耳と尻尾が生えてきていた。
 不思議にも、その耳と尻尾は俺以外の誰にも見えないもののようだった。
 妹曰く、その耳と尻尾が見えることが、俺が妹と愛で結ばれた何よりの証拠なんだそうだ。
 狐が憑いたおかげだと、妹は笑った。

 俺が妹と繋がったその日から、俺たちは毎日セックスをするようになった。
 妹の体に溺れていったのもあるが、何よりも妹の狂気すら感じさせる剣幕に気圧されたからだ。

 当然ながら両親も、俺と妹の間に何かあると勘付く。あろうことかそれは、妹が俺を組み伏せて腰を振る現場を見られる形で発覚した。
 両親は激怒し、悲嘆に暮れた。けれどもそれで事態は何も好転しなかった。
 俺と引き離そうとすれば、妹は半狂乱になって暴れまわり、まるで手に負えるものでなかった。
 俺の方から事情を説明しようにも、狐が憑いたからなんて言って納得されるはずもない。ところが精神異常を疑ってみても、結果は全くもって正常という判定だ。
 最後に一縷の望みを託して呼んだ霊能者は、妹と俺の様子を見るなりこう言った。

――お嬢さんに狐が憑いたことは本当です。もう祓うことなんてできません。
お兄さんとの仲を認めてあげなさい。そうすれば何も悪いことは起きませんよ。

 両親は遂に諦め、何も言わなくなった。
 声をかけること自体がなくなったと言って良い。もはや俺たちは家にいていないも同然だった。
 妹は気にするそぶりも見せず、これでもう邪魔をされずにセックスができると、そう喜んだ。
 言葉通りに、俺と妹は躊躇無く部屋から嬌声を漏らすようになった。

そして今日もまた俺たちは、二人で快楽の海に溺れている。

 妹には――御鍵(みかぎ)には、狐が憑いている。








「ちゅぷ……ちゅ、ん……んちゅっ、んんっ……」

 カーテンの締め切られた暗い部屋に、舌をぴちゃぴちゃと絡ませあう音が響いている。
 本当なら、部屋はスタンドライトの薄明かりだけが光源だ。
 だけど御鍵の耳と尻尾は煌々と燃え盛り、その豊満なシルエットを映し出しだしている。

「おにぃ……キス、気持ち良いね……? ちゅぱっ、ん……」
「ん……そうだな……」

 御鍵と二人でベッドの上に座りながら、俺たちは濃厚な口付けに没頭する。

「ちゅぷっ……んっ、んっ……んくっ、んくっ……はぁぁ……」

 歯茎を舐め回し、舌先をちょんと小突き、交換した唾液を飲み込んでいく。
 俺も御鍵も、もう身に着けているのは下着だけだ。
 お互いに薄い布切れへと手を差し入れて、そこに隠れた性器をまさぐりあっている。

「んふぅ……おにぃ、もうオチンチン硬くなってるよぉ……?」

 御鍵の言葉通り、俺のパンツの中ではペニスが硬さを増していた。

「ほら
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