時刻は十二時きっかり。チャイムが鳴って、これからお昼休み。
向こうには教室から食堂へと駆け出していく男子のグループ。
あっちには自分を迎えに来た恋人と一緒に出て行く同級生。
それぞれがそれぞれのお昼模様を始めている。
まあ、そんなことはどうでも良くて。要するに今はお昼休み。
大事なのは、アタシの隣の席に座ってる彼のこと。
「ふっふ〜ん♪ かっらあっげかっらあっげうっれしいな〜♪」
ニコニコとカバンからお弁当を取り出して――チャンス! 絶好の機会! アタックポイント!
緊張でピンと背筋を伸ばしながら、アタシはちらりと自分のカバンに目をやる。
そこには自分のお弁当と……それから、彼のために作ったお弁当が入ってる。
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……
「お弁当? へえ、アンタ好きな男の子できたのね?」
「ちょっと、お母さん!」
これは昨日の夜のお話。
お母さんに『お弁当を作りたいから手伝ってほしい』と頼んだときのこと。
アタシは彼のことなんて一言も触れてないのに、母さんはニヤニヤ顔でこっちを見てる。
まったく……なんでお弁当と好きな子が結びつくのよ、もう。
「そんな恥ずかしいことでもないわよ。年頃の娘なら普通よ、普通」
「べっ、別にアイツのことなんて、ほんのちょ〜っとだけ気になるかなってぐらいで……!」
確かに、彼のことは気になるかもしれないけど……!
でもそれはホント、ホントにちょっとだけ! 例えて言うなら、そう! うろこの先っちょぐらい!
それも彼が怒ったところなんて見たこと無いぐらい誰にでも優しくてのほほんとしてるけど気が利いて隣の席のアタシにも色々と親切にしてくれるしそうそうアタシの苦手な宿題を嫌な顔一つもしないで手伝ってくれたこともあったっけ彼いつだって裏表なさそうにニコニコ笑ってくれてるのよそりゃちょっと鈍ちんかなって思うところもあるかもしれないけどそれも彼の場合は嫌味じゃなくて魅力の一つかなって思えちゃうような感じなのよねそれと子どもっぽいっていうかゴハンを食べるときはいつも目をキラキラさせてる腹ペコさんなのがまたちょっと可愛いところかなっていうぐらい!
ふぅ……ほら、ちょっぴり。たったこれだけじゃないの。
なのに何でお母さんの顔からはニヤニヤが取れないのよ! 何よ、もう!
「ふーん……それじゃ、もしその子がアンタに告白してきたら?」
「アイツが、告白……」
お母さんのその言葉に、アタシは思わずその光景を想像しちゃう。
告白……こくはく。こく、はく。
場所は定番だし、屋上とかなのかな。
きっと放課後、キレイに夕日が校舎を照らしてて、ロマンチック。
それで彼ってば、いつになく真剣な顔して、アタシのことをじっと見つめてきて――
『――ずっとあなたのことが好きでした……俺と付き合ってください』
「……えへっ、えへへっ♪」
「ほらね、その反応」
「はっ!?」
はかったわね、お母さんっ! なんて巧妙で姑息な手をっ!
「ち、ちがっ! アイツがどうしても付き合ってくださいって言うから、アタシは仕方なく……!」
「全く、どうしてこんな素直じゃない娘に育ったんだか」
慌てるアタシを半眼で見つめるお母さん。
そんなこと言われても仕方ないじゃない……気付いたらいつも妙なこと口走ってるんだもん。
「いや〜、だけど懐かしいわね〜。お母さんもお父さんにお弁当作って
『かっ、勘違いしないでよね! これは作りすぎちゃっただけなんだから!』
とか言って渡したっけな〜」
「うわっ、ベタベタじゃん」
「人のこと言えんのか、アンタって娘は」
……アタシの意地っ張りってお母さん譲りじゃないの?
ま、そんなことはどうでもいいとして。本題よ、本題。
「で、お弁当の中身は決まってるの?」
「シュウマイ弁当。大好物なんだって」
いつだったっけ。好きな食べ物の話になった時に――
『鬼陽軒のシウマイ弁当が毎日食べられたらなぁ……俺すっごく幸せなんだけどなぁ……』
――とか言って呆けてたぐらいだもん。あの顔見たら確信持って言えちゃう。
「ふーん。食材は?」
「ちゃんと揃えてある」
「気合入ってること」
千切りショウガ、切り昆布、杏の甘煮、タケノコ煮。
それからマグロのつけ焼きに、カマボコ鶏、から揚げ、シュウマイと厚焼き玉子。
全部作れるように下準備ばっちり。
これでアイツの胃袋からハートまで一気に鷲掴みしちゃえば……。
えへっ、えへへっ♪
あーんしてもらったりとか、ほっぺについたゴハン粒とってあげたりとかしちゃったり……。
えへっ、えへへっ♪
「頬に
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