もしも私が人間になったなら。
 私はご主人様にゴハンを作ってあげたいです。
 ご主人様はいつも私においしいゴハンを用意してくださいます。
 それに、新鮮なお水だって、いつだって飲めるようにしてくれています。
 だから今度は私が、ご主人様にゴハンを用意したいのです。
 お料理はしたことないから難しいかもしれませんけど、でもがんばります。
 舌には自信があります。きっとご主人様の気に入る味を見つけてみせます。
 そうして、ご主人様と一緒のテーブルで、温かいゴハンを食べるのです。
 もしも私が人間になったなら。
 私はご主人様のお背中を流してあげたいです。
 ご主人様はいつも私をお風呂に入れてくださいます。
 それに、私の体をキレイに洗って、いつだって清潔に保ってくれます。
 だから今度は私が、ご主人様のお背中をお流ししたいのです。
 毛づくろいしかしたことないから難しいかもしませんけど、でもがんばります。
 丁寧さには自信があります。きっとご主人様の身体をピカピカにしてみせます。
 そうして、ご主人様と一緒の湯船で、ポカポカ一緒に温まるのです。
 もしも私が人間になったなら。
 私はご主人様の身体を抱きしめてあげたいです。
 ご主人様はいつも私のことをぎゅってしてくださいます。
 それに、私のことを抱き上げて、よしよしって頭を撫でてくれます。
 だから今度は私が、ご主人様の身体を抱きしめてあげたいのです。
 抱っこされたことしかないから難しいかもしれませんけど、でもがんばります。
 抱き心地には自信があります。きっとご主人様を気持ち良くしてみせます。
 そうして、ご主人様と二人で、仲良くぎゅ〜って抱きしめ合うのです。
 もしも私が人間になったなら。
 私はご主人様にしてあげたいことがたくさんあります。
 もう数え切れないぐらい、たくさんのことをしてあげたいです。
 だけど、私は犬なのです。
 人間になりたいっていくら望んでも、人間にはなれないのです。
 お料理を作ってあげるのも、お風呂で背中を流すのも。
 ぎゅってご主人様を抱きしめるのも、何も私にはできないのです。
 全部全部、ご主人様にしてもらう側。私はご主人様に、何にもしてあげられない。
 結局、私は犬なのです。
 だから神様、お願いです。
 せめてどうか。少しだけ。
 ご主人様と話せたり、二本の足で立てたり。
 ちょっとでもご主人様のお役に立てるようにしてください。
 ご主人様の幸せのために、できることを増やしてください。
 大好きなご主人様のために。
 ほんの少しでも良いですから。
 大好きなご主人様に、私のもらってる幸せを、ほんの少しでも返させてください。
 神様、お願いです。
 神様……。
 ……やっぱり、無理ですよね。
 仕方ありません。そんなことで急に身体が変わったりするはずがないのです。
 それに犬がしゃべったりしたら、ご主人様も驚いてしまいますしね。
 そうだ。そろそろご主人様が帰って来る頃ですし、せめてお迎えだけでもしましょう。
 そしてゴハンをもらいましょう。お風呂に入れてもらいましょう。
 ぎゅって、抱きしめてもらいましょう。幸せにしてもらいましょう。
 私は犬なんですから。それで十分幸せなんです。
 私は、犬……なんですから。
 <タダイマー!
 あっ、ご主人様が帰って来ました! 急いでご主人様のところに行かないと!
 ……?
 あれ……? おかしいですね……。
 何だか身体がちょっと大きくなったような気がします。
 それに手足も伸びて……どうしてか四つん這いだと、とっても歩き辛いです。 
 でも……こんなの、ただの気のせいですよね。
 きっと人間になりたいなんて思ったから、そんな気分になってるだけです。
 私は駄目な犬ですね。早くご主人様をお迎えしにいかないと……。
 待っててください、ご主人様。私は今すぐご主人様のもとに参ります。
 ご主人様ー! お帰りなさいー!
 ご主人様ー!
 <ゴシュジンサマー! オカエリナサイー!
 <キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!
 おしまい♪
	
		
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