重なるところ

「キミ、ほんと変わってるよね」

 いつものように彼女と二人、彼女が住んでいる洞窟の上。
 横になるのに丁度良い草むらで寝そべっていた時のこと。
 身を起こした彼女が僕に話しかけてきた。
 変わってるって……僕が?

「変わってるって、絶対」

 僕のいったいどこが変わっているんだろうか。
 再度彼女に問い返すと。

「こうやってボクと一緒にいるだけでも変わってるよ」

 そう言って彼女は自分の顔を指さした。
 そこにあるのは、とびきり大きな瞳が一つ。

「だってボクは一つ目だから」

 彼女の表情は、どこか寂しそうで、拗ねているようでもあって。
 そんな彼女に僕は、そうだね、と笑いかける。
 彼女の種族はゲイザー。
 目玉が付いた多くの触手と、赤くて大きな単眼がトレードマーク。
 そのトレードマークがそっくりそのままコンプレックス。
 だけど僕から言わせれば、彼女は全然普通の女の子だ。

「ボクのどこを見てそんなこと言うのさ」

 普通の女の子だよ。僕は続ける。
 それは見た目の問題じゃなくて、彼女の内面の問題。
 人と違うところが気になって、それで悩んでいて、キレイになりたくて……。
 なんのことはない。僕が知ってる女の子たちと何も変わらないじゃないか。
 彼女の場合は、その悩みが単眼っていう、分かりやすい所なだけで。

「気にするに決まってるでしょ? ボクだって好きで一つ目じゃないんだし、もし一つ目じゃなかったら、もっと人とだって……」

 まあ、確かにそうかもしれない。
 彼女は人付き合いが良い方じゃない。
 知人の数も両手の指で足りてしまうし、親しい人間となると、両手の指が片手の指になってしまう。
 それにはやっぱり、彼女が単眼であることも関係しているはずだ。
 彼女と会うと、たいていの人はびっくりする。そして彼女に近づくのを避ける。
 かく言う僕だって、初めて彼女と会ったときは随分と驚いた。うん、驚いた。

「ほら、やっぱりね」

 ホントのことだから仕方がない。僕もお近づきは遠慮したいと感じたうちの一人だ。
 それから、彼女と接するようになったら、今度は捻くれていて意地悪な性格に腹が立ったりもした。
 彼女の数少ない友人に頼み込まれて、シブシブ彼女にゴハンを届けに行ったのに、何度も酷い言葉と一緒に追い返されて。
 もっと凄い時には、催眠のせいで僕は川に飛び込むはめになったりもして。
 こっちがガマンして付き合ってやってるのに、って嫌になったりもした。

「悪かったよ、もう……」

 ばつが悪そうに彼女は目を伏せて、だけど素直に僕に謝ってくる。
 そうだ。彼女は本当ならこういう面だって、ちゃんと持っている。
 それから、自分が他人には素直になれないことを悔やんでもいた。

 何度も顔を合わせて、彼女と話をするようになって、彼女と一緒の時間が増えて……。
 そうしている内に分かってくる、お互いのこと。
 気になっていたことが気にならなくなって。
 逆に気になってくることが増えてきて。
 それが大事なことなんだと思う。

「大事なこと?」

 そう、大事なこと。
 違ってる部分があっても、それをお互いが知って、受け入れられるようになる。
 それはすごく素敵なことだと思う。
 僕と彼女が、今こうして隣り合っているように。

 それにさ、と。
 僕は彼女に問いかける。
 君はリンゴが大好きだよね?

「うん」

 僕もリンゴが大好き。ネコも大好きでしょ?

「大好き」

 僕もネコ大好き。逆に、騒がしいところは苦手。

「嫌かな……」

 僕も騒がしいところは苦手。
 ほら、君の目は一つで、僕の目は二つ。違うところは一つ。
 だけどそれと別に、もう三つも同じところが見つかった。
 僕と彼女で、重なるところが見つかった。

 もちろん、ずれるところだってまだある。
 僕と違って彼女は、高いところは全然へっちゃらだったりもする。僕は絶対に無理。
 でも彼女は料理が大の苦手。僕は料理が得意中の得意。
 だけど僕ら二人とも、ゴハンを食べることが大好き。
 二人で食事をするようになったのも、僕が彼女にゴハンを届けているうちに、いつのまにやら。
 そんな風に始まった二人での食事は、一人で食べるよりもずっと楽しかった。

「うん……そうだね」

 僕は知ることができた。
 違うところ。同じところ。また違うところ、同じところ。
 彼女と会って、言葉を交わして、ずれていたり、重なっていったり。
 そうやって僕らは今、二人で隣り合っている。

 確かに、君は一つ目かもしれない。
 それは僕と違うところかもしれない。
 だけど、僕と違うところと、同じところと。
 僕とずれてるところと、重なるところと。
 全部ひとまとめにして、君のことが好きなん
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