ドキン、ドキンと心臓が跳ねている。汗が頬を伝う。ぺらりと入賞者が書かれた紙がめくられる。
「〜〜〜〜」
入賞や審査員賞なんかに興味はない。狙うは大賞。それだけだ。
「大賞は…」
ドキンドキンドキン!!心臓が跳ねる。心臓がどこにあるかが手に取るように分かる。大丈夫大丈夫大丈夫、俺は天才なんだポッと出の奴なんかには負けない!!
負けない…はずなんだ…
「音街拓斗!!」
そうして、稀代の天才響谷奏介は、突如現れた鬼才、音街拓斗に敗れ。
その才能を殺してしまった。
絶望の冬が明け、新しい春。俺はあの日以来一切ピアノが弾けなくなってしまった。
それゆえ魔界の学校から誘われていた断り近場の公立高校に入学した。
「ねぇあれって…」
「有名人じゃん」
「でもなんか…」
噂話が俺の耳を刺す。ウザイ。
「はーいみんな静かに」
担任と思しき先生が入ってくる。
「私がこのクラスの担任の佐々木です。よろしくお願いします
「次はみんなの番、1人ずつ出席番号順で挨拶して〜」
はぁ…嫌だ…自慢じゃないが知名度はそこそこあるからなぁ…
「響谷奏介です…」
視線が気持ち悪い、何も知らないくせに憐みの目で見るんじゃねぇ…何も…何も知らないくせに…
時間は過ぎ部活同紹介の時間に。やる気はないから帰宅部一択だが。
たしかここは珍しく吹奏楽じゃなくてオーケストラだったか…
今更ピアノ以外の楽器をやるのもめんどいな。
「こんにちは!!オーケストラ部です。私たちは〜〜〜」
はいはい、知ってる知ってる。
「では演奏を聴いてください!!」
お手並み拝見…ま、評判を聞かないってとこは大したことないんだろ。
「♪♪♪〜〜〜」
こ、こっここれは…!!!とても!もの凄く…
「酷い」
ピッチはバラバラ、金管は前に出すぎで木管と弦を食って。あっリードミス。
とにかく酷いの一言。顧問は何やってるんだか…って指揮振ってんの部長って言ってた人じゃん。
初心者の集まりかよ。論外中の論外
その後の紹介は軽く聞き流し放課後。帰宅部が無いのでどこかの幽霊部員にならなければ…
「見つけた!!!!!!!!」
「え?ちょ、うわっ!」
「見つけたよ天才君!!ぜひオーケストラ部を救ってください!!!」
「ってて、あなたはオケ部の…」
「そう、ミリアルド。ミリアルド・アールミス」
いきなり飛び込んでくるのはどうかと思ったが魔物娘か…
「さ、音楽室へGO〜」
「えちょ、俺まっ…」
と言いかけた時にはもうすでに音楽室に付いていた。魔法許すまじ。
「連れてきたよ〜」
「拉致したの間違いでしょう」
「まぁまぁ。とりあえず見学だけ見学だけ」
どうせ逃がしてくれない、なら見学くらいしていくか
しかし…本当にヘタクソだな。もっとまっすぐ吹けよふにゃふにゃじゃないか。
あーあーこの曲は金管は抑えなきゃ…
「話にならん、帰る」
「え?見学は?」
「これ以上聴いてても仕方がない。下手すぎる」
「なっ!みんな頑張ってるんだよ!?」
「頑張るのは当たり前だ、この世界に居る奴はみんな頑張ってる」
「じゃあ!、どこがダメなの!」
「そもそもピッチがあってない。特にトロンボーン、テューバがダメだ。トランペットは音がふにゅふにゃ。クラリネットはリードミスが多い、基礎練をしっかりしてるか?」
「それにおたくらオケでしょ?金管主張しすぎ、逆に木管と弦は遠慮しすぎ」
「な…むむむ…」
「それが直ったら検討くらいはしてやるよ」
そう言うと俺は音楽室を出て。そのまま家に帰った。
翌日も噂話に辟易していたらいつも間にか部活見学の時間になっていた。まぁいい。帰ろう。
と思った時、ふいに聞こえてくる音色。オケ部だ。
音のバランスが取れている。昨日指摘した所がよく修正されている。
「1日で…この変わりよう?」
俺の足は音楽室へと向かっていた。
「おっ、来たね来たねぇ〜。どうだった?聴こえてたでしょ?」
「ちゃんと修正されてる。悪くない」
「でしょ〜。あの後新しい先生と一緒に練習したんだ〜。天才君とまったく同じ指摘されちゃったけど」
「新しい顧問?」
「来ましたね、奏介君」
聴き慣れた心地よい声、俺はとっさに後ろを振り返る。
「瑠偉先生…瑠偉先生!!」
「久しぶりですね」
「ありゃ?知り合い?」
「知り合いどころか恩師ですよ」
そう、瑠偉先生は俺の恩師、中学校時代にみっちり教えられた。実は世界レベルの腕を持ってるのになぜか先生をしてる。
「さて、奏介君も来ていることですし、君に提案があります」
「何ですか!?」
「君にはこれからこのオーケストラを率いる指揮者になってもらいます」
「…」
「……」
「………」
「え?」
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