何処を見ても人、人、人なこの街。しかしこの街の路地裏を少し入るだけで今にも崩れ去ってしまいそうな、頽廃的な雰囲気を纏っている。そんなまるでハリボテのような街
しかしそんな街でも見かけ上は大都会。
夜だというのに人がたくさんいるスクランブル交差点近くの大型モニターから発せられる今のヒットソングはメロウな歌声で街を濡らす。しかしあたしの気持ちはまるでチップチューン音楽。
8bitなあたしはきっとこの街からも浮いているのだろう。
「気持ちが悪い」
そんなあたしはこのハリボテ街の夜を少しフラつきながら歩く。音楽が変わったようで次はネットミームにもなったメロディが特徴の音楽。
今は人気でもいつかは廃れる。大量生産された挙句忘れ去られたあたしみたいに
彷徨っていたあたしは1つの路地裏道に戻ってくる、ここに戻ればあたしは普通に戻る
「ただいま」
そのまま路地裏の闇夜に溶けて消える。
薄暗い路地裏をするすると通り一つの寂れたアパートの前に、ここがあたしたちの家。
ガチャンと音を立て玄関が開く。中はあんまり掃除されていない。
「おかえり、マキナ」
そう言ってくれるのはリョウタ、私の恋人だ。私を拾ってくれた恩人でもある。
「うん、ただいま」
「ご飯できてるから、お薬ももらってきたし」
「ありがとう」
椅子に座り用意された夕食を食べる。生活は苦しいはずなのにいつも美味しい料理を食べさせてくれるリョウタには感謝しかない。
「お風呂は先に貰ったから、入っちゃていいよ」
「わかった」
その日のお風呂は少し気持ちがよかった。
お風呂から出るとリョウタは先に寝てしまったようでクウクウと寝息を立てている。
そんなリョウタに軽くキスをすると、淋しい病気で彼に恋人らしい事をさせてやれない自分が憎くなる。
いや、私を産んだ製造元が憎くなると訂正しよう。
彼の横に敷かれた布団にくるまり、今日は寝ることにした。
次の日は家でゆっくりすることにした。どうせならまたハリボテの表側を歩いて気持ち悪くなろうとしたが今日はゆっくりしてと言われたので大人しくする事にした。
それなら日付が変わったら外に出よう。
久しぶりにネオンと快楽の街に行くのも悪くない。
まさか死ぬだなんて思ってもみなかったが。
一言で言うと強姦殺人。無理矢理犯され、首を絞められた。
あの顔はヤクやってる顔だったなぁ。ヤクやるのも乱暴に犯すのもあの男そっくり。思い出したくもなかった。
おっとと、そんな殺されたあたしがなんでこんなペラペラ喋ってるかって?なんか生きてました。ただし体中ボロボロ、髪の毛は真っ白になってボサボサ。これじゃまるで映画に出てくるようなゾンビ…って蘇ってる時点でゾンビか。
そんなあたしはきっと不思議生物になってる事は想像に難くないので頑張って身を潜めながら家に帰っている。そして3日かけ遂にアパートの前に
しかし…あたしが窓から目にしたのは…
見知らぬ女と一緒に居るリョウタの姿。
「あ…はは…」
乾いた笑い声が喉からこぼれる。
私はフラフラとアパートから離れ、そこからは朽ちゆく身体と心を連れて、1人当て無く夜の路地裏を漂う事にした。
暗い暗い夜が明け朝に。俺、リョウタはいつも朝5時には起きている。そのままクウクウと寝息を立てているマキナの可愛い寝顔を見るのがモーニングルーティンだ。
しかし今日はマキナが居ない。
「マキナ? マキナっ!!」
2人で暮らすには狭い6畳のアパートの部屋、お風呂、果ては唯一の収納を見てもマキナはいない。
俺はすぐに服を着替え外にマキナを探しに行く。
朝の街に俺の声が響く。
しかしマキナを見つけることは出来ず3日が立とうとしていた。
俺はその日、不思議な本をフードを深く被った、声質的に女性?から貰った。
その本は色々な呪文が書いてあり代償を払えば願いをかなえてくれると言う物もあった。
俺はその本をまるで信じてはいなかったが、マキナがおらず眠れない夜の暇つぶしに儀式とやらをやってみるのも暇つぶしになると思いやってみることにした。
するとどうだろう、世間的に見ればとびきりの美女が出てきたのだ。
「貴方が私の…あーら、もう恋人がいるのね、残念。で、私に何の用?」
まさか本物だとは…一瞬硬直したが今はマキナ優先だ。
「マキナに!!俺の恋人に合わせてくれ!!」
「ふーん、で。あなたは何の代償を払ってくれるの?」
「命でも金でも何でもいい。とにかくマキナに合わせてくれ」
美女は少し考え事をした後、こう答える
「うーん、まずはマキナちゃんの誤解を解かなきゃねぇ」
「何を誤解してるって?」
「簡単に言うと私がマキナちゃんに見られた。彼女、自分が死んだから私に乗り換えたと思ってるわ」
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