3.5cmの距離

「勝君、また奏さんの所にプリント運んでもらってもいい?」
「はい、いいですよ」

僕は陣内勝、結構田舎に住む中学生。

「それじゃ、さよなら先生」
「はい、さようなら」

僕はここ最近学校に来ていない幼馴染、小夜奏の為にプリントを運んでいる。

ピンポーンとインターホンを鳴らす、すぐに奏の母さんが出てくる。

「いらっしゃい勝君、また奏の為にプリント持ってきてくれたの?」
「はい」
「上がって上がって、美味しいお茶菓子があるわよ」
「そこまでしてもらわなくても…プリントを届けただけですし」
「いいのよいいのよ、それに、奏も勝君と話したがってたし」
「奏が?」

その言葉が妙に気になり俺は奏と話すことにした。

「それじゃ、後は若い二人で〜。あっそうそう」
「何か?」
「奏の部屋、入れないの」
「そうなんですね、じゃあドア越しで話をすれば?」
「えぇ、そうして頂戴」

奏のお母さんはそう言うと一階へ降りて行った。

「奏、今日もプリント持ってきた。僕と話したいって本当か?」
「うん、いつもありがとうね。話したいのは本当だよ」
「そっか、何が話したいんだ?」
「えっとね…やっぱ家族以外と話したいなーって」
「それじゃ学校こいよ」

俺は至極普通の問いかけをする。

「ごめん、今は…」
「そうか、いじめとかだったらちゃんと言えよ」
「いじめじゃない、今はそれしか言えないんだ」

じゃあなんで引きこもっているのだろう、謎は深まるばかりだ。

「それで、何話すんだ?」
「うーん、昨日見たテレビとか?」
「テレビは最近見て無いな、毎日勉強」
「勉強熱心だね、目標とかあるの?」
「あぁ。こんな田舎から出て、もっと都会に行きたい。だから勉強する。高校は隣町の進学校にするつもり」

その後も俺たちはたわいない話をして今日は帰ることにした。

「それじゃ、俺はそろそろ」
「分かった、これからも来てくれる?」
「勉強の息抜きくらいならな」
「ありがとう」

帰り道、奏の顔を少し思いだしてみた。

長い黒髪にどこか儚げな雰囲気、悲しんでいるとも、微笑んでいるともとれる神妙な顔立ち、そう言えばどこか昔から達観している所があったな。

今はどうなっているのだろう、あのままだったらきっと可愛いのだろうな。

そんな事を考えている内に家に着く

次の日から週に2〜3日は奏の家に顔を出すようにした。

「勝君、また来てくれたんだ。ありがと」
「べっ、別にお前のためじゃないし…」
「照れてる〜、顔真っ赤なんだろうな〜」
「照れて無いし…暇なだけだし」

実際暇ではない、それなのに奏の家に来ているのは…自分でもよくわからない。

「それじゃあ〜、コイバナでもしてみる?」
「なんでだよ」
「なんとなく?勝君の恋愛事情とか聞いてみたいし」

なんとなくで話す事か?女子のノリは分からん

「居ねぇよ、好きな奴なんて」
「そうだよね〜勝君モテそうにないし」
「はいはい、そう言う奏はどうなんだよ」
「私〜?私はいるよ、好きな人」

居るんだ、正直意外だな

「じゃあそいつ見るために学校来いよ」
「ちょっと無理かな〜」

その日も特に意味の無い会話をして俺は家に帰った。

それからも彼女の家に行っている内に時間はかなり経ち、俺は受験の時期となる

「明日、受験の結果発表なんだ」
「前言ってた進学校?」
「あぁ」

会話はここで途切れる、次に話し出したのは奏の方から。

「ねぇ…高校進学してからも…来てくれる?」
「うーん、正直厳しいな。来れても月1とかになるかも」
「そっか…」

次に話し出した奏の声は今にも泣きだしそうなほどであった。

「ごめん…今日はもう帰って」
「どうかしたのか?」
「いいから帰って!!」

急に大きな声で叫ぶ奏、これ以上は話になりそうには無いので今日は帰ることにした。

それからモヤモヤした気持ちをを抱えたまま合格発表へ。

簡潔に言うと、俺は落ちた。

周りの嬉しそうな悲鳴が急に聞こえなくなった、そこから家に帰った記憶は無い。
気が付くと家で泣いており、夜になっていた。

次の日、俺はなぜか奏の家にいた。なぜだかは分からなかった

「勝君、こんにちは」
「あぁ…」
「テンション低いね、大丈夫?」
「奏…俺、落ちたよ」
「え…?」

悲しみでポタポタと涙が出てくる。

「勝君…今、いいかな?」
「どう…じだんだよ…」

ガチャリとドアが開く。見なくなって約2年。そこに居た奏は俺の想像とは少し違った。

黒髪だったはずの髪は真っ白の白髪。日本人らしい黒色の目は真っ赤に。しかし儚げな雰囲気は変わらず、途轍もない美少女になっていた。

「早く入って」
「う゛ん…」

初めて入る奏の部屋は女の子らしい部屋で少し甘い匂いがする。

「ごめんね、ベッドに座って」
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