ファインダー越しの君へ

 僕たちの関係はいたってフラットな物だ。昔からの付き合いと言う事で関係は深いが何も変わらない。

「私達、親友だよね。太一!!」
「う、うん…そうだね」

そう言われた日の事はよく覚えている。太陽が暑く照っていてTシャツが汗ばんでいた。ジメっとした僕の気持ちを代弁したようで気持ちが悪かった。

学校の帰り道にコンビニに入る、昔あいつと読んでいた漫画の続きが出ている。そう言えばどうなったんだろう、気になって漫画を買ってみる。

「あははっ!面白さは変わんないな。ははっ…」

きっと君と読んだら面白いんだろうな。一緒に笑って、一緒に帰って、一緒に…

そう考えていても埒が明かない、漫画を鞄にしまい家に帰る。

もう何年親友を演じているのだろうか、距離感は良いんだが、本音を言えば辛いや。
自然と涙が落ちてくる、必死に我慢してもボロボロと。

次の日になってももやもやは晴れる事は無かった。授業の時はそれに集中すればいいのだが休み時間まで勉強する気にならなかった、やる事も無いので部活で使うカメラを手入れするかのようにガチャガチャと弄る。

僕は写真部所属、彼女は陸上部所属。僕はよく被写体に彼女を使う。表向きには躍動感の表現には運動部がぴったりと言っているが本当は君が見たいだけなんだ。

それでも…

そっとファインダーを覗いた先に居る君は、想像よりもずっと遠くに居る気がする。

「今日も写真撮ってるんだね、見せてよ」
「ごめんね、今日取ってるのは一眼レフって言って写真を見るには写真屋さんに行かなきゃいけないんだ」
「そっか、出来たら見せてね」

不意に話しかけられてびっくりした。親友を上手く演じられただろうか。

「あっそうだ」
「まだ何かあるの?」
「今日一緒に帰ろっ!!」
「いいよ」
「わかった、西門で待っててね」

僕に笑いかけてくれるその笑顔を僕だけの物に出来たらいいのにな…

そんなもやもやを抱えたまま部活が終わり西門にて彼女を待つ。

「ごめーん、遅くなっちゃて」
「いいって、僕たち“親友”でしょ?」
「ありがと、それじゃ帰ろっか」
「うん」

そこからあまり話はしないまま帰り道が半分ほど過ぎたころ。

「ねぇ」
「なに?」
「相談が…あるの」

彼女がここまで弱気そうに話すのは珍しい事だ。何かあったのだろうか

「その…ね、最近気になってる人が居るの…」
「そうなんだ」

以外にも僕は冷静だった、その相手が僕ではないだろうと達観した考えまで持っていた。

「その人はね。部活に一生懸命で、私の事一番に考えてくれる優しい人なの」
「うん」
「それでね…私、恋だなんて初めてだからどうすればいいかわかんなくて…太一なら相談しやすいと思って」

僕は微妙な心の中をバレないように、必死に顔を作って応対する

「以外に告白すれば楽にOKしてくれるんじゃないかな?だって…だって里香は可愛いし、魅力的だし…」

あれ、おかしいな。親友を演じるのはもうなれたはずなのにな…どうして、どうしてこんなに…

「泣いてるの?」
「うっ…あっ、泣いてないよ。ごめんね、幼児思いだしちゃった」
「あっ、待って。話はまだ!!」

彼女の言葉を無視して走り出す。泣きながらだと息が苦しい。

「待って!!」

不意に手を掴まれる。そりゃそうだ、写真部の僕と陸上部の里香じゃあ比べるまでもない。

「待ってって!」
「うるさい!!」

彼女の手がビクンと震える。こんな大声出すの初めてなのだからな、驚いたのだろう。

「待って、話を…「そいつを幸せになれよ」
「僕は“親友”、そうだろ?」
「もう話しかけてくんなよ。わかったな」

不器用なだけのボンクラが出来るのはこれだけだ。

走って、走って、家に着く。母さんは何かを察してくれたようで黙っていてくれたことがありがたい。

その日は、そのまま眠りについた。

次の日、スマホを見ると午前5時を少し回った頃。起きるにはまだ早い時間だ。

しかし寝汗と昨日お風呂に入っていないことが重なり体がべたついている。
お風呂を沸かしてる間に今日着る服を選ぶ。

休日の部活は部員の自由と写真部ではなっているので行かなくてもいいが…

迷っていると手に持っているスマホがバイブする。
里香からだ

「昨日はごめんね」
「話したい事があるから会いたい。5時には起きてるからいつでもラインしてきて」

昨日の事だろうか…
悩んでいると彼女から電話がかかってくる。

「起きたんだね、今日は早いじゃん」
「昨日帰ったらすぐ寝ちゃってさ。昨日はごめんね」
「いいって、誰にもそういう時あるって」
「ありがとう」

「それでね、今度は太一に話があるの」

いつになく真面目な声で話す里香。

「僕に?」
「うん、今日は学校来る?」
「それじゃあ行こうかな」

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