ここはとある親魔物領の一角。晴れた日の昼下がり。
木漏れ日の差し込む森の中に、小さな人影が一つ。
近くの街に暮らすまだあどけない容姿の少年は、とても慎重な様子で前へと進んでいた。
獣道すら見受けられない森の中を、草木を掻き分けつつ、しかし極力音を立てないように抜き足差し足。真っ直ぐ前を見据えるその視線からは、子供が道に迷っているような様子は見られない。十歳よりなお若いだろう少年、その背丈ほどの雑草が行く手を遮っているにも関わらず、まるで彼にしか見えない道がそこに見えているかのように、ただひたすら前へと突き進んでいた。
ふと、ある地点に差し掛かったところで少年の動きは更に慎重なものへと変わった。
一歩一歩足元を確かめて、小枝の一本すらも踏まないように。まるで、何かに気が付かれないように。野鳥のさえずりと自身の心音だけが少年の鼓膜を震わせている。彼の瞳は僅かばかりの緊張と溢れんばかりの期待に満ちて、爛々と輝いていた。
少年の視界がさっとひらけて、彼は眩しそうに目を細める。
そこは、森をその部分だけ丸く切り取ったかのように木々がひらけた空間だった。空からはさんさんと太陽の光が差し込み、色とりどりの花々が咲き乱れ、蝶々が楽しそうに辺りを舞い踊る。幻想的とすら思えるその場所こそが、少年の目的地だった。
しかしながら、少年はそこへ足を踏み入れようとはしなかった。手前の低木の陰に静かに身を隠すと、枝葉の隙間から花畑へとじっと目を凝らす。こっそりと、何かを探すように。しばらくして、徐々にその目が太陽の光に慣れてきたころ……
「……っ!」
……その瞳がとらえた光景に、少年はドクリと心臓を跳ね上げ、息を呑んだ。
見開かれた視線の数メートル先、花畑の中央にある朽ちた切り株。それを背もたれにして、一人の少女が腰を下ろしていた。
ショートカットに切り揃えられた茶髪からは一対の黒い触覚。背中からは薄く透き通った二対の翅。お尻のあたりからは、黒と黄の警戒色に染まった昆虫の腹部様の器官が生えている。その方面に詳しい人間であるならば、この少女が草原や森林地帯に生息する『魔物』の一種、『ハニービー』であることが分かっただろう。整った輪郭にすっきりとした目鼻立ち、大人しそうな目付き。全ての魔物に共通する眉目秀麗な容姿は、確かな女の色気を感じさせつつも、やや幼げだ。その年の頃は、少年と比べて五歳ほど年上といったところだろうか。
少女を見つめながら、少年は鼻息も荒く、ゴクリと唾を呑み込む。
それは、年上の女性の美貌に思わず見惚れてしまったから……というわけではない。もちろん少女の容姿は少年にとって、異性に対する悩ましい感情を誘起させるに十二分なものではあったが……正確には、彼の反応はもっと別の部分に起因するものだった。
少女は、裸だったのだ。
「本能的に男を欲する」というその性質上、露出の多い格好を好むことで知られるのが魔物という生き物ではあったが、当の彼女は下着一枚すらも身に付けてはいなかった。胸も下半身も完全に露わとなっていて、瑞々しく真っ白な素肌が暖かな陽の光に照らされていた。年齢相応、決して豊満とは言いがたい、けれどもスレンダーでバランスの良いその肢体。自然豊かなこの空間に、生まれたままのその姿は見事なまでに調和していた。
「ふあ……
#9829; んっ、あっ
#9829;」
可愛らしくも、どこか艶めかしい声音。
同時に数度、少女の全身がピクピクと跳ねた。
お椀型の小振りな乳房が、美味しそうなプリンのように柔らかく震える。
少女の手と指先は、大きく左右に開かれた股の間に添えられていた。僅かに濡れているらしく、陽光を眩く反射するそこを繊細な指先が蠢くたびに、しなやかな脚線美が小刻みに痙攣する。
淫靡な雰囲気を多分に滲ませるそれは、明らかな自慰行為だった。自分のしていることに夢中になっているのだろう、少女の顔は次々と生まれ出る快感によってすっかり蕩けてしまっていて、すぐ近くで覗かれていることになどまるで気付いていないようだった。
「あっ、んくっ……
#9829; ふぁあっ
#9829;」
温和で大人しそうな外見から、控えめに繰り返される嬌声と痙攣。しかしそれでいながら指先だけは忙しなく蠢き続けていて、くちくちという粘っこい水音が少年の元まで届いてくる。慎ましくも熱のこもった、自分自身への慰め。少年は、目の前の少女が毎日同じ時間にこの花畑に居て、いつも同じ行為に耽っていることを、ここ数日ほどの経験で知っていた。少女のあられもない痴態を覗き見ることこそが、少年が真に求めていたものだった。
少年は自分でも知らないうちに、前のめりになってその光景を凝視していた。まだ心身ともに幼い彼には、
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
8]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想