承 「最善のための罪」

暫く思索に耽る内に、画面の中で繰り広げられる平和な問答はなりを潜めていた。
そして、代わりに画面に映るのは石造りの一室。
記憶が正しければ、海の奥深くに沈む彼女の家だった。
そこにいるのは、二つの影。
正しくは、かつて語り合った彼女の影と、ある少年の影。
そう、彼女と後に番う事になったであろう、運命の相手。
もっとも、今となってはそれは望むべくも無いが。
<マイラ、彼は一体……?>
感傷を遮るかの様に、記録の中の僕が彼女に問う。
「あのね、このひとがね、およげなくなっちゃってたからね、」
<ここに運んできたと。>
「そう!」
……何だ?この違和感は。
<いや、ちょっと待て。彼は人間じゃないか?>
そう思うやいなや、答えが見つかる。
そう、彼は人間だ。
泳げなくなるも何も、そもそも海の中の存在じゃない。
「にんげん?」
<要するに、陸の上の生き物なんだよ。>
「え?」
<だから、海の中じゃ生きられないの。>
「あ、えっと、わたし……」
少女の顔に疑問が浮かび、たちまちそれは焦燥に変わる。
だが、それを感じているのは過去の僕も同じだった。
<ああっ、うだうだ言っている場合じゃない!>
「えっと、あの……」
<マイラ、彼を陸まで運べる?30分以内に!>
「あ、いや……」
<ああ、やっぱり遠すぎるか!>
<だからって見捨てるわけにも行かないし!>
「あ、あの…どうしてうみのなかじゃいけないの?」
<どうして海の中じゃまずいかって、そりゃあ空気が無いから…>
<そうか、その手があった!>
<ごめん。ちょっと苦しくなるよ!>
「えっ、きゃあっ!」
そう言うや否や、辺りを満たす水が引いていく。
否、辺りに空気が満ちていく。
一応、この通信機は多環境に適応出来る事を目的として作っている。
故に、使用者の保護を兼ねて、簡易的に環境を整える事も出来る。
もっとも、これは魔界に満ちる力……魔力があってこそのものなのだが。
「これは、なあに?」
「いしさんがぴかーってひかったらみずさんがなくなったよ?」
<ああ、この辺りを空気で満たしたんだ。>
「くうき?」
<そう、陸に生きる生き物に必要なもの。>
<正しくは、その空気の中の一部が大切なんだけれど。>
<ってマイラ、君は大丈夫?苦しくない?>
「えっ?どうして?」
<いや、そりゃあ鰓呼吸なら水中で無いと呼吸が出来ないはず…>
「えらこきゅう?」
<……成る程、両生類に近いって訳か。>
<よくよく考えると、人と魚の合いの子みたいな容姿だしね。>
「?」
問答の間中、彼女は首を傾げ続ける。
まあ、無理も無いだろう。
彼女はまだ幼い。
<いや、何でもない…ってそれどころじゃない!>
だが、ゆっくりと答えている場合じゃない事は確かだった。
<早く蘇生を!>
「そせい?」
<ああっ!細かい事は僕がやる!>
<とにかく、僕を彼の胸の上に置いて!>
「う、うん!」
少女が端末に近づき、持ち上げる。
視界が大きく上がり、前方へと進んでいく。
本来、陸を進むには適さない下半身で、必死に進んでいるのだろうか。
歩みは酷く遅く、そして不安定だ。
だが、やがて彼の胸の上と思われる所まで辿り着き、動きが止まる。
<これを介してやった事は無いけど、やるしかないか!>
記録の僕が、覚悟を決める。
すると、幾つかのアームが現れ、いや端末から伸び、少年の蘇生を開始する。
「いしさん?これは?」
<ごめん。答えている時間は無いんだ。>
「はい。」
姿勢を整え、気道を確保する。
胸を押し、心の臓に刺激を与える。
息を吹き込……
<……>
「どうしたの?」
戸惑いが伝わったのだろう、少女が再び声をかけてくる。
<ごめん、人工呼吸、出来るかな?>
「じんこーこきゅう?」
<彼の口に口を合わせて、息を吹き込むんだ。>
「えっ、あっ、それって……」
「きす?」
少女は戸惑いを浮かべつつ、こちらに問う。
<気持ちは分かるけど……>
<まあいいや、君の意志に任せる。>
そう語ると、再びアームが動き出す。
無機質に、それでいてどこか有機的に、少年の蘇生へと動き続ける。
だが、少年が動く兆候は、未だに無い。
<駄目、なのか?>
絶望を抱いた声を、端末が発する。
「あの、じんこーこきゅうをしたら、たすかるの?」
<……絶対とは言えない。>
「でも、たすかるかもしれないの?」
<……ああ。>
「じゃあ、やる。」
少女は顔を真っ赤に染め、さらにそれを決意で上塗りし、こちらを見据えていた。
<分かった。タイミングは指示するから、それに合わせて。>
「うん。」
<それじゃあ、せーのっ!>
端末が指示を与え、少女が口付ける。
今更ながら、少女が顔を真っ赤にしているのを見ると、非常に申し訳ない気がする。
<良し、離して!>
少女もやはり動揺を隠せていない。
大してア
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