掲げられた十字架。
輝くステンドグラス。
荘厳な雰囲気の中、高らかな宣言が響く。
「大いなる主神の名の下に、汝を勇猛なる神の尖兵、勇者に任命する!」
一つの儀式が終わりを迎え、今ここに一人の勇者の旅が始まろうとしていた。
「勇者になったとはいえ、気をつけていきなさいよ。」
旅支度をする俺の耳に、ある女性の声が聞こえる。
耳にたこが出来るほど聞いた、僕を案ずる声だ。
「分かってるよ。母さん。」
その言葉にいつもの如くこう返す。
このやり取りもこれで暫く聞き納めかと思うと何か感慨深いものがあった。
「それよりも、母さんこそしっかりしてくれよ。
折角魔王を倒しても、帰ってくる家が無いなんて嫌だからな。」
「そうね。
あの人もまだ帰ってきていないしね……」
そう。
父さんは結局、任命式に立ち会わなかった。
任命式の少し前に異端討伐の命を受けて、そのまま帰ってきていない。
けど、父さんの事だ。
どうせ大した事じゃないに違いない。
長くとも一、二週間もすれば平然として帰ってくるだろう。
「父さんは大丈夫だろ。
どうせどこかで人助けに奔走してるさ。」
道具袋には一通り物を詰めた。
「でも……」
食料も当分は大丈夫そうだ。
「大丈夫なものは大丈夫。
百戦錬磨の勇者なんだろう?
だったら今俺らがするべきなのは信じる事さ。」
装備の手入れもちゃんと出来ている。
「そう……ね。」
ようやく、準備が整った。
「とにかく、俺は行くよ。」
魔物の襲来、度重なる災厄。
世界には助けを求める人が沢山いる。
彼らを救うためには、立ち止まるわけにはいかない。
「……そう。
だったら、この街を出たら、錬金の街を抜けて賢者様の家に向かいなさい。」
俺の言葉に、母さんは決心したように言う。
「ちょっと……だけど、きっと力になってくれるはずよ。」
聞こえなかった言葉が気になるが、まあ大丈夫だろう。
父さんたちも、彼に助けられたのだから。
「分かった。ありがとう。母さん。」
「それじゃあ、行ってきます。」
これは、旅立ちの挨拶。
そして同時に、「再び戻ってくるよ。」と、その意味も込めた言葉。
「行ってらっしゃい。」
俺は今、ここを旅立つ。
生まれ育ったこの地を。
大切に守り育ててくれた父さんや母さん、皆のいるこの地を。
だけど、必ず戻ってこよう。
世界の平和をこの手に携えて。
「そこかぁっ!」
振り下ろされる石斧。
舞い上がる砂煙。
太……ふくよかな少女達が、僕らを追っていた。
「氷織、大丈夫?」
彼女にそう、声をかける。
僕の事は別にいい。
無事であるべきなのは、彼女だ。
「は…はい!」
僅かに息切れした声。
繋いだ手からも、若干疲れている様子が伝わってくる。
けれども、立ち止まるわけには行かない。
「ちょっと、何やってるのよ!
折角奴隷が見つかったって言うのに!」
「そうよそうよ!これじゃ何も見えないじゃない!」
そんな声を尻目に、僕等は木々の間を駆け抜ける。
奴隷にされる?
とんでもない。
そんな事になったら何も分からずに終わってしまう。
ましてや、彼女をそんな目に合わせるなんて論外だ。
「落ち着きなさい!」
その刹那だった。
飛んできた斧が頭上を掠める。
「なっ……」
その斧が吹き飛ばしたのか、立ち上っていた砂埃が晴れていた。
咄嗟に振り向くと、眼前には突進する桃色の少女。
「氷織、下がって!」
とっさに繋いだ手を引き、体を彼女の前に運ぶ。
「はぁっ!」
僅かな後、伝わる鈍い衝撃。
何が起きたかを理解する間もなく、僕の体は宙を舞った。
「ぐ…あっ。」
「だ、大丈夫ですか!?」
彼女が駆け寄ってくる。
「僕は、大丈夫。
だけど……この状況はそうでもないみたいだね。」
僕に一撃を加えた少女は何かの余韻に浸るかのように拳を握りしめている。
その表情には、明らかな恍惚が見て取れた。
僅かな後、桃色の少女は慌てて表情を正す。
心なしか、そんな仕草の中に他の少女より…引き締まっている、とでも言うのだろうか。
少なくとも、僕はあらゆる面において、この少女が他の少女と別格であると感じさせられていた。
「強がってる場合なのー?」
別の少女が、声を発する。
「そうそう。姐さんの一撃で身も心も蕩けちゃってるくせに。」
…失礼な。
僕にそんな趣味はない。
とはいえ、先ほどの一撃がかなり大きなダメージとなっているのは事実だった。
動けずに居るうちに、一撃を加えた少女が近づいてくる。
せめてもの抵抗と、少女を強く睨み付ける。
その僅かな後だった。
脇腹に凄まじい衝撃が走る。
「ぐっ…」
その衝撃のままに地に倒れこむと畳み掛けるように頭に重圧がかかる。
頭蓋に凄
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