迷宮都市イシュルには魔力が満ちているとされている。
以前、ある学者がなぜ迷宮都市に魔力が満ちているのかを調査したことがあった。その調査の結果から、学者が結論づけたのは以下の通り。
ダンジョンは一種の魔界のようなものなので、傍らに作られた都市はその影響を色濃く受けているからではないか。
この結論は、想像の枠内にきっちり収まる、ちょっと考えれば誰でも思いつくようなモノであったため、調査と称して遊んでただけじゃねえかと学者を罵倒する者もいた。
学者が調査を真面目に行ったか否かは別とするにしても、ことイシュルにおいて、学者が言っていることは少なくとも間違ってはいなかった。
イシュルのダンジョンは、そのほとんどが最奥に君臨する主が作り出した異界である。定期的にダンジョン内部に魔界でしか見られないような魔界銀や魔界ハーブ、淡い光を放つ魔灯花などが生成されるのもそのためだ。
ただし通常の魔界と比べて、意図的にダンジョン内部空気の魔力含有量は低くされており、長時間ダンジョンを探索しても人間に影響することはないと言っていい。ダンジョンの上にある迷宮都市においてはさらに低く、ほとんど人間の暮らしている土地と変わりはしなかった。
ならばなぜ、人は迷宮都市イシュルに魔力が満ちていると勘違いをするのか、その答えは簡単で、
答えの一端を担っている魔物娘のシイは、ダンジョンギルドにおいて大声を張り上げていた。
「なんで、ダンジョン入るだけでこんなにお金がかかるの! もっと安くしてよ!」
魔物娘だって人間と同じように、心に余裕がなければ言葉遣いが荒くなってもおかしくはない。さらに言うならば、人間と同じように懐の中身と心の余裕が直結することだってあるのだ。
そう、端的に言うとシイには金がなかった。シイの現在の所持金では、ダンジョンに入れるのはあと三回が限界といったところ。すぐになくなってしまうのは目に見えている。
だからこそ、なんとかダンジョンに入る料金を安くしてもらおうと、こうして受付相手に必死にクレームを出していたのだ。
ただし受付もシイのようなクレーマーには慣れたもので、溜息を一つついたあとにシイをジッと睨みつけ、
「宝箱設置費用、ドロップアイテム費用、人間に対して行うイシュルの広報活動費用、ダンジョンギルド運営費用など様々な出費がございます。貴方の気持ちはよくわかりますが、私達も理不尽感じてるんだから我慢しろや」
「あ、はい。すみませんでした」
シイは小心者なので、すごまれると弱かった。先ほどの威勢とはうってかわって、そそくさとギルドを出ていく羽目になる。
「はぁ・・・・」
シイがダンジョンデビューしてから、まだ一日。昨日はギルドから立地的に遠い安宿に泊まり、寂しい一夜を過ごしていた。
日数が嵩めば滞在費用もそれだけ増える。幸いイシュルにおいて宿賃や食費などは滅法安く、場所を選ばなければダンジョンに三回入るお金で一、二年は滞在できるくらいだ。夫さえ出来てしまえば、魔物娘にとって楽園の都市であると言っても過言ではない。実際に、イシュルで誕生した夫婦の八割ほどが都市に居着いていたりする。
なんとか今の懐事情だけで、夫を手に入れることができないものか。うんうんと唸りつつ悩むけれど、あまり頭が良くない方だと自覚すらしてないシイには、ぴたりとパズルが一致するような名案を思いつくのはなんとも辛いものがあった。
はあ、と一つ溜息をつき、なんとなく横を向いた店の扉。シイは目を見開いて口をあっ、と大きく開ける。そこには大きく武器屋と書かれてあった。
「そうだ、私には武器がない!」
空っぽの手のひらに視線を向け、今更なことを言うシイ。シイもインプの端くれであるので下級魔法程度は扱えるが、昨日ダンジョンで人間達と相対した時のことを思い返すと、やはり相応の武装は必要であろう。
思い立ったが吉日とばかりに、シイは店の扉を開く。
「らっしゃい」
中には店番をするオークがいた。だるそうにシイのことを一瞥したあと、興味はないと言わんばかりに視線を横に流す。
しばらくシイは店内の武器に目を通した、が、今まで武器を持ったことすらなかったシイにとって、善し悪しなんてわかるはずもなかった。
「あのー、オススメってある?」
おそるおそる訊ねるシイに、オークは視線を前に戻し、
「・・・・あんたインプでしょ。大した金も持ってなさそうだし、そこらへんにあるナイフでいいんじゃない?」
店の隅に乱雑に置かれた安物武器に指を向けた。
「うーん、でもこの刃物って危なくない? 人間大丈夫?」
シイは武器を手にとって顔に近づける。窓の外から入る光によって刃がキラリと輝きを放った。
「・・・・あんた知らないの? この都市の武器は基本的
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