「なんか三ヶ月の間ですごいフラグをへし折った気がする」
「いきなり何言ってんの?」
迷宮都市イシュル。魔物娘が人間をゲットするために作られたその都市は、大雑把に東の人間エリアと西の魔物娘エリアに分けられている。互いのエリアは巨大な分厚い壁によって行き来を遮られていて、たまに翼を持った魔物娘が飛び越えようとして仕掛けてあるセンサーに捕まりお仕置きを受けたりするが、まぁ些細なことである。
それはともかく。
魔物娘エリアの商店街の一角にある武器屋において、現時点のお客はインプの少女、シイのみであった。けれどもシイは、お客というより冷やかしのようなものであり、邪魔以外の何者でもなかった。
しかし武器屋の店番であるオークのレベッカは、シイの意味が分からない発言にも律儀に返答していた。それは彼女の優しさであり、することがなくて暇という証でもあった。
「旅に出てた時にある街に立ち寄ったんだけどね。なんか虫の知らせが、もうちょっと街に滞在しとけってうるさかったの! あまりにもザワザワしたもんだからムカついて、無視して帰ってきたんだ!」
「虫の知らせってそういうものじゃないでしょ・・・・」
「あとあと! 立ち寄った街ですっごい良い男の子にあったんだけどねー、もうこの子もらおうかなーと思ったんだけど、街の住民の視線がヤバすぎてさー。リザードマンとか刑部狸とかサキュバスとかダークエンジェルとかワームとかその他いっぱい。生きた心地しなかったよー」
シイが今思い返してもぶるってくる視線の数々。ダンジョンにいる探索者達と遜色ない、いやむしろ敵意の質では上回っていると思えたほどであった。
「お別れくらいしようと思ってたけど、結局出来ず仕舞いだったなぁ・・・・」
まあいっか、あんなにライバルいたらちんちくりんの私なんか無理無理、とシイは持ち前の後ろ向きに前向き精神を発揮する。
「あ、ねえねえ、そういえばこんなのもらったんだけど。これなに?」
街に滞在中、刑部狸にさっさと街から出て行ってくれるならあげる、とかなんとかよくわからないことをいわれて渡された、変なフルーツを見せる。
「えっ、それ確か魔力アップする果実じゃない? しかもかなりレアモノなやつ」
「ほんとう!? やった! なんで渡されたのか知らないけどラッキー!」
まるごと勇ましくガブリといくと、シイの舌に独特な甘味が広がった。そのままパクパクと食べていく。
「売ればかなりの額に、ってもう食べちゃったか」
「えー、早く言ってよー。でもこれ結構美味しい!」
シイは魔力が上がった!
割とお腹が空いていたシイは、自身の頭ほどもある果実をぺろりとたいらげ、指についた果汁も舐めとる。カウンターに頬杖をついてその様子を眺めていたレベッカは、シイが店に来てから抱いていた質問をする。
「そんで、なんでアンタはここにいんの?」
「ん、ここを待ち合わせ場所にしてるの。仲間達とのねー」
「いくら客がいないからって待ち合わせ場所にすんな!」
「そろそろなハズなんだけど、っと噂をすれば」
レベッカの怒声を受け流し、空いていた窓を見やると三ヶ月ぶりの仲間の顔があった。
「とおー!」
開いていた窓から降ったのは、手のひらサイズの綿玉の魔物娘――ケサランパサラン。
黄緑の髪をゆらゆら揺らし、綿に包まれた小さな体が、一陣の風の速さでシイに飛翔した。
「しいー!」
「チノ! 久しぶり」
「しいー、あいたかったー!」
そういって、シイ――のアホ毛に抱きつくチノ。愛しさ余ってちゅっちゅと接吻を繰り返している。
「あいらびゅー」
「そっちは私の本体じゃない!」
シイは憤慨するものの、チノは聞く耳を持つ性分ではなかった。
ケサランパサランのチノは、シイのパーティーメンバーの魔物娘だ。なんかいろいろ押し付けられた形で仲間になった経緯を持つ。よくシイの頭の上を寝床にして寝ていて、そのたびにシイのアホ毛はべたべたになっていたりする。
「それで、チノ。修行とかはしたの?」
「もちろん! んとねー、じぶんちにかえってねー、あそんだー。あと、ゆりあにもあってきたよー」
それただの帰省なんじゃ、とシイは思ったが、シイも修行という修行はしていなかったので、まあいいやと気にしないことにした。
とそこに、今度は来客を告げるベルと共に、一匹の魔物娘が入ってくる。
「失礼するよ」
「キサラ!」
「きさらー!」
「待たせたな。シイ殿、チノ殿」
どことなく、重い雰囲気。ジパングでよく使われる頭に被った笠を下ろし、ハードボイルドを背負って立つかのごとく現れたのは、サラマンダーのキサラだった。
キサラは腰ほどまである漆黒の長い髪にきりりとした美しい容貌、ジパングの民族衣装を押し上げる豊満な胸元、リザード属の特
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