「遠いよー! 聞いてた話とちがーう!」
ガルセアへと向かう道の途上で、ある魔物娘がへこたれていた。
小さな顔には丸く大きな金色の瞳と形の整った柳眉、果実のように色づきぷっくりとした唇、肩口あたりまで伸びた滑らかな蒼紫の髪、などなど、どこからどう見ても可愛らしい美少女であった。
・・・・あったのだが、そんな可愛らしさが台無しになるくらいに、瞳は虚空を見つめてやつれ、唇はへの字に曲がった不満顔。加えて頭のてっぺんにあるデカいアホ毛が、しんなりと折れ曲がり、くよくよしていた。
「お腹ペコペコで、死にそうだよー・・・・。雑草おいしそ・・・・ん? んん!?」
少女が何かを見つけたと同時に。生えているアホ毛も気分に合わせた様に、ぴたーんと直立する。
「もしかして、あれかな? やった! もうすぐだー!」
住んでいた街を発ってから早四日。ようやく、その瞳に街を捉えることが出来た。期待を隠し切れずに、背中の翼がパタパタと動く。
目に見えていても、実際の距離はかなり遠かったりすることを、この魔物娘はまだ気づいてはいなかった。
「ライカさん、ここで一旦別れましょう。二人で分担した方が早いでしょうし」
「はぁ? 私はお前の護衛でもあるんだが・・・・」
「すぐに帰るので、大丈夫ですよ」
「そうか、・・・・うーん。まぁ次行くとこは既婚のシンディさんのとこだから連れ込まれる心配はないか。ただし、何かあったら大声で叫ぶんだぞ。あと、路地裏とか危ない場所には行くなよ」
「はい、わかりました」
今度、魔物の街ガルセアで冬のお祭りがある。
僕にとってこの街では初めてとなるお祭りは、何かを祀るためのお祭りではなく、これからくる寒い冬を頑張っていきましょうという意味の、お祭りそのものが目的なのだそうな。
元いたところでは秋の豊穣祭くらいしかやらなかったので、マスターにお祭りの詳細を聞いてみると、どうやら勝手がかなり違うようだ。いろんなところから人が来て、街の広場に屋台が立ち並び、歌に踊りにと朝から晩までイベントが続くのだとか。
そして僕が働かせてもらってる『エンドレス』でも、お祭りで出張屋台を出すことに決まった。
そんなお祭りの準備もあって、僕とライカさんは朝早くからマスター達に頼まれてあちこちを奔走していたのだった。
・・・・
・・・・・・
「・・・・はい、ではそういうことで。当日はよろしくお願いします」
「あら、いいのよ。そうだレン君、お菓子でも食べていかない?」
「ごめんなさい、これから委員会の方に報告しなければいけないので」
「そう、残念ね。それじゃ、また今度」
「はい、ありがとうございます! それでは」
ぺこりと頭を下げて退出する。これで仕事は大体終わったかな。『エンドレス』に戻ろう。
最近、外はめっきり肌寒くなった。肩掛けの鞄から愛用のマフラーを取り出して首に巻く。
冷たくなる手に息を吐き出して温めながら街を歩き始めたようとしたとき、街の入り口に変な物が横たわってることに気づいた。
「あれなんだろ・・・・、って!」
あれは物じゃなくて人だ! 誰かが倒れてる!
「大丈夫ですか!?」
急いで駆けつけた僕は、倒れている人の頬を軽く叩いた。
「うぅ・・・・」
よかった、意識があるみたいだ! はやく、お医者様に見てもらわないと。
「待っててください! 今すぐにお医者様を呼んでくるので」
そう言い残してまた駆け出そうとしたのだが、倒れている人に僕は腕を掴まれてしまった。
「あの・・・・、なんですか?」
「ぉ、・・・・おなか、すいたの」
そんなかぼそい言葉をかき消すように、ぐぎゅるるるるる!!!! というすごい音が辺りに鳴り響いた。
「うまっ! うまっ!」
人気のない街外れの小さな公園のベンチに僕達は座っていた。
隣には僕の作ったサンドイッチを頬張る女の子。頭から出ている角や背中から生えている翼をみるに魔物さんなのだろう。
ただ僕が何よりも気になるのが頭のてっぺんにある髪の毛で、それはサンドイッチを噛みしめる度に喜びを表すようにビュンビュン動いている。
触角かなにかなのだろうか?
「もっとないー?」
いつの間にかサンドイッチを食べ終えていた魔物さんは、空のバスケットを涙目で見つめていた。これからお祭りの委員会のみんなに配ろうと思って多めに持ってきたのに全部平らげるなんて、よほどお腹が減ってたんだなあ・・・・。
「ごめんなさい、これしか持ってきてないです・・・・」
「ちぇー、そっかー。でもありがとね!」といって空のバスケットが差し出されたので受け取る。
「あの、それよりも本当に大丈夫ですか? 倒れてたわけですし、いちおうお医者様に見てもらった方が」
「んー、大丈夫大丈夫。こう見えて私結構
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