魔物の街ガルセアのとある酒場には、昼間から飲んだくれている狸がいた。
「ちくしょう、なんでどこにもいないのよ!」
二年である。借金もない清らかな両親を相手に、必死に少しずつ好感度を上げつつ二年だ。あの子の悲しみに曇る顔を見たくないから、強引に両親に借金を負わせて奪い取ることもできず、コツコツと積み上げて来たのだ。
行商をしているからいつも側にいられないこともあって、モヤモヤとした日々が続いていた。しかしいずれ手に入れたあとのことを考えれば今の状況は焦らしプレイに見えなくもなく、ここまで待ったのだから自分のものになった瞬間はどれほどの快楽が自分の身を焼き尽くすのだろうかと、未来に期待を膨らませていた矢先。
久しぶりに町にきたら、その子の家はなくなり空き地になっていたのだ。
一瞬頭が真っ白になった。
そうしてしばらくの間呆けていたが、冷静さを取り戻し、近隣住民に話を聞くと目眩がした。
あの家族は疫病にかかって、死んだとのこと。家は他への感染を恐れて焼き払ったようだ。
死んだ・・・・死んだ・・・・死んだ。
またしばらく放心してしまう。現実感が沸かない。
詳しく話を聞くと、疫病の疑いが強い一人息子は今から五日前くらいに町を追い出されたらしい。
その言葉を聞いて、希望が沸く。私にとってはまだ、最悪の事態には陥っていないようだった。
この町にはもう絶対来ねえと誓いつつ、ありとあらゆるツテを使って近隣の町や村を探した。部下には流行病に効く薬も持たせ、人間達の間で普及するギルドには高額の依頼を出し、私自身も町や村をかけずり回った。
考えられる最良の方法は全部とったが、それでも見つからなかった。
疫病の疑いもあって寄り合い馬車などの足も利用できず、まだ大人になりきってない身体では、それほど遠くにいけるはずもないのに。目撃情報だって、信憑性がないのがほとんど。
一ヶ月も探してなんの進展もないのだ。酒を浴びるほど飲みたくなるのは、私だけじゃないはず。
「・・・・リネンちゃん、どうしたの? 昼間っからそんなに飲むなんて」
「うるへー、エールじゃんじゃんもってこーい!」
「はいはいわかりました、・・・・といいたいところだけど、この店これから昼休みなのよ」
「なぬ? この店にそんなのなかったような」
「ちょうど一ヶ月くらい前からね」
「一ヶ月まえ〜?」
それは奇しくも私があの子を探し始めた時期と重なって。
「ミシルちゃんとこの喫茶店に可愛い子が入ってねえ、そこで奥様同士集まるのが最近のトレンドでー」
「ミシルさんっていうと、『エンドレス』ですか」
だっさい店名だから覚えていた。確か最初はミシルさんが店名をエンドレスラヴにしようとしていたから、閉店したらどうするんですか? ってからかった記憶がある。普段強気なミシルさんと言えど少なからずショックを覚えたらしく、急に弱気になって店名を変えた。それでも短くしただけなあたり何とも言えないが。
私も何回か行ったことはあるが、ほとんど閑古鳥だったはず。店名はださいし、食べ物も普通、そしてなにより店が暇な時に、頼んでもいないのにしてくる惚気話が致命的。店に入ったら店内に誰もいなくて、代わりに厨房から喘ぎ声が聴こえてきたなんて話もある。
そんなもん独り身の魔物娘にとってみれば、ウザいなんてものじゃない。殺意が芽生えるレベル。そりゃ閑古鳥も大忙しになるってもんだ。
「わかりました・・・・、もう行きますよ」
まだまだ飲んでいたいのが正直なところだが、同じく商売を営む者として店の邪魔をする気はない。
まあ少しはスッとして、落ち込んだ気分も上向きになった。・・・・たとえ、何年かかっても探し出してみせる。そう決意を固めつつ、カウンターに代金を置こうと懐に手を入れ、
「もう、ほんとうに可愛いのよー、レンくんって! ウチの娘もらってくれないかしら」
一瞬で酔いが醒めた。
「レンくんっ!?」
「お願い、レンくん! この紙に書いてあることを言いながらそれを渡して!」
「お願いします!」
「よろしく・・・・!」
「は、はい?」
いつもの店内で僕は常連さんに囲まれ、よくわからないのだけど拝まれてしまった。そうやって渡されたのは一枚の小さな紙切れで。
「お願いー!」
「一生のお願いですー!」
「ちらちらっ」
「えーと、わかりましたから、皆さん頭を上げてください。・・・・この紙に書かれていることでいいんですよね?」
受け取った紙に書かれていた文字に目を通す。あまり難しい言葉は使われていなかったので、これくらいなら僕でもかろうじて読みとれる。
「うん、うん! 中身をスプーンでかき混ぜながらね!」
「できるだけノリノリでお願いします!」
「情
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