迷宮都市イシュル。その都市の中心にあるダンジョンにおいて、今日も魔物娘達は自分の夫を求めて奮闘している。
最近ダンジョン四階層の担当になったインプの少女、シイも例外ではない。これまた最近できた仲間であるケサランパサランの少女、チノを頭に乗せつつ気合いを入れて頑張っていた。
「いい、チノ! これからあの人間達をターゲットにするわ!」
「おお!」
「まず、」
「ふはははー、まかせろー!」
「まだ作戦言ってない! 行くなー!」
「しい、みつかった。たすけてー」
「あ、ばか! こっち来たらバレ・・・・、ふえ〜ん!」
頑張った割には、成果はまったく出ていなかったけれど。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
「しい、あしはやーい! らくちん!」
全力疾走で逃げることに疲弊したシイは、どうやらチノの軽口に返答する余裕はないようで。
「はぁ・・・・」
ただただ無事に逃げられたことの安堵と、人間をゲット出来なかった無念の両方を込めたため息をつくのであった。
イシュルに来てから走ってばかりで、何度も夢想する捕まえた夫との甘いイチャラブ生活は未だ実現していない。
イシュルに来る前と変わったところといえば、ダンジョンを走り回ったお陰でついた足運びであろうか。一階層に増して足場が不安定であると悪名高い四階層においても、シイは普段と同じ調子で走れるようであった。
「むきむき? しいのあしー、むきむき?」
「ムキムキじゃないもん! しなやかなの! ・・・・だよね?」
ちょっと不安になったので、立ち上がってふくらはぎを叩いて見る。・・・・多分おそらく大丈夫。シイは目を背けることにした。
「しいー、これからどうするのー?」
「ふん、まだダンジョンに入ったばかりだもん! チノ、次のターゲットを探すわよっ!」
「おー!」
シイは元気いっぱいのチノを頭の上に乗せ、共に拳を突き上げながら、次なる人間に想いを馳せる。
シイ達の戦いはこれからだ!
と、これからではあるのだが、チノとパーティーを組んだ経緯はなんとも微妙なものであった。
というか、先日になんかわけわからないままにケサランパサランを押し付けられたものの、ぶっちゃけてシイは、
「こいつとパーティー組んでなんか意味あるの?」
と思っていた。自分を棚に上げて実に失礼な奴である。
けれどもあえてシイの擁護をするならば、確かに初対面からチノの行動はヒドかった。本作成、コミモ会場とどちらの場合も手伝うことはなく、頭の上で遊んで邪魔になっているかどっかに飛んでいるかしているだけだったので、シイの気持ちも当然というべきなのかもしれない。
そんな事情によりシイはパーティーを組むべきか決めかねて、稼いだ金で真っ直ぐダンジョンへ向かう前に、とりあえずお馴染みとなった武器屋へと向かったのだった。
「平和ねー」
朝から武器屋の店番に入ったオークは、客のいない店内でのんびりぼーっと過ごしていた。
というのも、イシュルにおいて武器屋は朝に困らないものなのである。武器の新調にくる魔物娘は都市に来たばかりの新人か、ダンジョンを潜り終わった者が多く、それらは昼から夜にかけて集中するからであった。
これが武器修理店となると話は別で、ダンジョンを潜り終えた魔物娘が夕方から夜にかけて依頼をし、朝に修理されたものを受け取りに来るというパターンが多く、昼は皆ダンジョンに潜っているので暇なのだ。
あとはそもそも、客の量も違ったりする。ダンジョンに潜る金額がオプションも絡めればかなりお高いので、武器を新調する金銭があるならば、修理で安く済ませた上で他の費用に回すといった魔物娘が多い。
また魔法を使う魔物娘は武器を持たない事もあり、防具屋よりは客が少ないという事情もあった。
そういったわけでのんびりとしていたオークであったのだが、平和な時というのは前触れもなくぶっ飛ばされるものだ。具体的には来店を知らせるドアベルとともに、厄介者はやってきた。
「おー、れべっか!」
「誰かと思ったらチノじゃない。あれ、ユリアはどうしたの?」
「えっとねー、どっかいったー」
目の前にいる、よく考えないで喋るケサランパサランの少女と店番オークは知己であった。リャナンシーの少女が連れてきて、店内を縦横無尽に飛び回って遊び、たまに陳列物を倒す。まぁめんどくさい魔物娘だがたまにしか来ないので、どっかのインプよりはマシ、というの店番オークの感想であった。
「なんだそりゃ、・・・・ってアンタも来てたのか。今度はなに、また愚痴?」
入ってきたインプの少女を見て思わずげんなりする。今までに色々あったので、店番オークにとって目の前の少女はめんどくさい塊のような存在である。
「しいとぱーてぃー、くんだのさ!」
「しい? 誰?」
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