潮風を体に浴びながら、私は齧りかけのリンゴと買い物メモを手に城下町の一角、港町になっている所をぶらりと散歩していた。港町が故に様々な地域との交易品が集まっているようなので、買い物をする際にとても便利だ。更にこの世界の他の地域がどの様な特色があるのかも知れるようだ。一石二鳥と言うか三鳥と言うか。
しゃり、と王林に似た食感のリンゴを口の中で楽しみながら商店の立ち並ぶエリアを見るとどうやら交易品だけでは無く魚や加工食品(干し肉等)、他に面白いものと言えば鋼材等の素材も一般的に売られていた。なるほど、ここは良く考えれば武器屋や防具屋がある世界なのだから売られていて何もおかしい事は無かった。うーん、やはり異世界は面白い。
「すいません、これ一匹下さい」
「はぁいはい、これは霧の大陸近郊の海で取ってすぐに干したぷりっぷりの身が美味しいホッケの干物だよ!ほぅら、食べたくなったろう?」
「確かに……!」
ザ・漁師って感じの威勢のいいおっちゃんの売り文句が胃に染みる。奥さんであろうマーメイドが別の客の会計をしている。人間と魔物娘の輝かしい共生の現状を垣間見た気がした。……うーむ、どうにも腹が減ってマトモに感想を言う事が出来ない……。
空腹に身を任せて港町をウロウロしている。お食事処はある事にはあるのだが、港町の昼下がりともあってどこもかなり盛況のようだ。視神経で美味しそうなものを見て、鼻腔で美味しそうな香りを楽しむ。私はいつの間にやら孤独のグルメを楽しむ気がマンマンだった。ああ、何を食べよう。
飲食店街へと辿り着いた私は、店先に置いてあるメニューの書かれたボードを見ながら胃袋と相談をしていた。私の胃袋は自己主張が激しく、ビビっと琴線に触れた物しか食べたくないとごねている。そう言えば現代で読んだ[班長が外出する某漫画]でも班長が同じ様な状況に陥っていた気がする。
ちょうどそんな事を考えながら歩いていた時に、ふと鼻のセンサーにビビっと良い香りが検知された。まあサイボーグでは無いからそんなデジタルな鼻では無いのだけれどもね。
それで、だよ。その香りの出処を探すと1軒の店に辿り着いたのだ。その店のメニューを見るとどうだろう。
[うどん]
[そば]
[ラーメン]
[天そば]
[天うどん]
[カレー]
[魚介天丼]
[(以下略)]
港町で魚介天丼。うむ、あたりの予感しかしない。だがしかしうどん・そばの店に入って麺類を頼まないのも勿体ない。更に悩みに歯車をかけるのは一つだけあるラーメンだ。オプションも無し、ラーメン単体で売り出しているという事はそれだけ自信があるということだろう。港町だから魚介ベースのスープなのだろうか……
ぐぅ。
胃袋がぐうの音も出してしまったので、私は急かされるように[食事処 けつね庵]へと入店した。
店内は和風……と言うか現代にも普通にある様な木のテーブルと椅子が並べられている、見慣れた光景が広がっていた。港から少し奥の所にある為か客足はまばらで、落ち着いて食事が出来そうだ。
「はいはいいらっしゃい!」
店主であろう狐の……日本風だから確か稲荷だ。稲荷の女性(語彙力が足りないので美人以外の表現が思いつかない!)が歓迎してくれた。
とりあえず会釈をしてからの着席。さあ、何を食べよう。……よし。胃袋との和平交渉は上手くいった。
「すいませぇん、魚介天丼とお蕎麦お願いしますー!」
「はいはい只今!」
稲荷の女性のフサフサの尻尾を眺めながら、提供された熱い緑茶を啜って「ホントに異世界なんだなぁ……この様子だと何とかやって行ける気がするぞ?」なんて考えていると、ガラリと入口の戸が開いた。どうやら別の客が来たようだ。さあどんな美人がくるのやら……
「やぁやぁ久しぶりじゃのうおばちゃん!久々にここの味が食べたくなってわざわざジパングから来てもうた!」
「茶助!久々に顔を出したと思ったらおばちゃんだなんて!私はまーだまだ若いのよ!で?魚介天丼と蕎麦で良かったわね?」
茶助と呼ばれた和装の男性は、奇しくも私と同じメニューを注文して、尚且つ私の席の真横によっこらせ、と座った。
「………」
「………」
目が合った。話しかけるにも緊張するなぁ。
「お前さん……中々見ない服装じゃのう。何処の国の人間じゃ?」
困ったぞ……どう答えようか……。私の服装はグレーのズボンにオレンジ色のジャケットだ。世界観にそぐわない服装なのは百も承知で、街に来たのも世界観に合った服を買いに来たって理由だ。
「遠いようで近い場所の人間……?」
間違いでは無い!
「なぁんじゃ、面白いやつじゃのう!俺は茶助ってんだ。生まれは……まあジパングって事にな
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