体が硬い。関節という関節がギシギシ言っている。指す油が欲しい所だけど生憎私は普通の人間なので潤滑油は指すことが出来ない。不便。
−−−そう言えば、ここは何処だろうか。
見たところ、私は白やグリーン、クリーム色で統一された一室(やや広し)に置かれているベッド(かなり上等。安眠効果を実感)の上で寝かされているようだ。
身体には包帯や点滴(薄緑色だぞ?)が繋がれており、大怪我人だった様子が誰が見ても察せられるだろう。何故か体の痛みはあまり無いのだが、右手だけ熱っぽい感じだ。ハチや大きなアブに刺された時の様な感覚を想像してくれると有り難い。
さて、と。寝ていた方が良いのかどうかわからないけれど、目が覚めたのならば1度は言ってみたかったセリフを言ってから起きよう。
「知らない天井……」
満足だ。
起き上がろうとしたその時、ヤギの悪魔っぽい女の子(恐らく友人の推しであるバフォメットだろう。)が部屋に入ってきた。そのバフォメットは起き上がろうとしている私を1目見ると直ぐに(ワタワタと)駆けつけて
「おお!思ったよりもだいぶ早いお目覚めじゃの!」
「ショートスリーパーなんでね。ところで私は一体あの……あれ?あの時私は……どうなったんです?」
「お主は何らかのきっかけで魔力の暴走が発生してのう。更に自分の体が許容出来る範囲を大幅に超えた魔力の回し方をしたもんで元通りになるのが奇跡ぐらいの状況だったんじゃぞ?」
どうして普通の大学生が魔力を持っているのか?どうして暴走したのか?とわからない事ばかりだ。ここに来る前から実は魔法使いでしたー!なんて筈は無いだろうけど、この短時間で大量の魔力が湧いてきましたー!と言うのも信じ難い。
「私はあの後……暴走した後どうなっていたのか教えてくれませんか?」
恐る恐る聞いてみた。
「右腕の筋繊維断裂、骨折、脱臼、皮膚の裂傷、火傷その他諸々を負ってしまったお主はこの[トリム・トリスメギストス]率いるこの城の魔術師チームの手によって集中治療を受けたのじゃ。再生魔術や治癒魔術の重ねがけでなんとか傷は塞がったものの、溢れ出す魔力を流れっぱなしにしておくと魔力に慣れておらぬお主の体はどんどん蝕まれてしまうのじゃ」
「ふむふむ……なぁるほどねぇ。それでその対策として付けられたのがこの!」
私は右手に付けられた(少しオシャレなアンティーク調の模様の着いた)グローブを掲げた。
「そう!魔力を吸い取ってストックしておけるグローブじゃ!」
「ほほう……」
「で、じゃ。そのグローブを付けた状態でお主は体力回復の為にここで寝ておったのじゃよ」
「ところで私はどれだけ寝てたんです?」
「2日と何時間か、ってとこじゃな」
「ワーオ……ロングスリーパーじゃあないか……」
−−−
その後、トリム・トリスメギストス……彼女曰く「トリィって呼んで欲しいのじゃ!」からグローブについての説明やこの城の説明(空中に映し出された場内の景色は驚いた事に全部あの夜に覗いた景色と完全に一致していた)を受け、城主のリリム(サキュバスのリーダーだろうか?恥ずかしい事に生態をあまりよく知らない)が戻って来るまで城内を無理しない程度に見て回って良いと言われた。トリィも何か用事があるらしく、案内役のオートマトンを1人付き添いとして宛てがわれた。
−−−
「あの……初めまして、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします。あの………お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、まだ名前を言ってなかったね。私は好意雪虎(すくいゆきとら)って言うんだ。極普通だった筈の大学生さ」
「わかりました。それでは雪虎様、これより城内を案内致します」
「待った、君の名前を教えてくれないかな?」
「私の名前はリーンと言います。これからどうぞよろしくお願いします」
彼女、オートマトンのリーンは深々とこちらへ向けてお辞儀をした。かなりの恥ずかしさと少しの照れを感じる。そりゃそうだ、普通で健全で平凡な男子大学生がこんな美女に深々とお辞儀をされることなんて普通は無いだろう。
彼女に連れられて部屋を出ようとした時、先程まで私が寝ていたベッドの下から何かが飛び出してきた。その"何か"は私の足元へ来るとふわりと浮き上がって私の右手へと収まった。
あの時、2日前のあの戦いの時にエタナが持ってきた手斧だ。
「あら、この斧は一体……?」
「新しく飼い始めたペットさあ!」
持っているわけにもいかずベルトに固定した斧がブルブルと震えて嫌がっている素振りを見せた。
こえーよ。
−−−
城の中は上品なワインレッド色のカーペットや金色の窓枠等で飾られた"
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