第二章 〜武神館にて

「ここか・・・。」

ようやく武神館に到着した。日が暮れようとしている。街の景観に気を取られて何度も道に迷い、こんな遅くになってしまった。

「しかし何とも立派な。」

夕陽の残光が僅かに赤く染める、坂上の大きな道場を見上げる。木造の大きな建物で、亡き父上から受け継いだ俺の道場の優に10倍はあるだろう。敷地内には、宿舎のような幾棟かの建物がある。私もここに住むのだろうか。漂ってくる木と畳の匂いが、俺に郷愁を誘う。異国の地にあって、ここだけにジパングが存在しているようだ。「武神館」と立派に大書された看板の下、大門の前で俺は声を上げた。

「もうし!拙者、ジパングはコジョウより参ったカズサ・ワタライと申す。開門を・・・」

「あっ来られた!!」

---ギィィィィ

口上が終わる前に扉が開く。調子が狂うな...。

「ようこそいらっしゃいました!」

弾けるような笑顔で迎えてくれたのは、15、6才ほどの可愛らしい少女だった。短く切り揃えられた金髪のおかっぱ頭が、彼女の愛らしさを強調しているようだ。そして、小柄だがよく引き締まった身体が、若年にして武道の経験を積んでいることを証明している。

「あまりに遅いので、もう今日は来られないかと思っていましたよ。」

「うっ....。道に迷うてしまって。面目ない。」

歯に衣着せぬ言い方をする娘だ。まあ、俺が悪いのだから謝るしかないのだが。

「私はこの武神館の道場主、ユライア・セラの娘、クリスと申します。父と門人が道場で待っております。ささ、どうぞ。」

喋りながら、機敏に動いて俺を先導する。忙しないが、明るく良い娘だな。
....念を押すが、もちろん妙な目で見てはおらんぞ!
クリス殿の案内に従って、門から道場へと続く通路を歩く。おお、もう薄暗いので全ては見えぬが、見事な庭だな。これは松ではないか。この地にもあるのか、遠くジパングから運んだのか....。と、そんなことよりも気になっていることがある。

「クリス殿。」

「はい、何でございましょう?」

くるりと振り向くその仕草が洗練されている。美といってもいいだろう。

「クリス殿は、あの門で拙者をずっと待っておられたのか?」

「いえいえ、草木に水をやっておりましたので...と言いたいところですが、本当はここの誰よりも一番にジパングのお侍さまを見たかったのです。」

悪戯のばれた子供のように小さく舌を出して答える。俺は、そんなクリス殿に初対面ながら妹のような親近感を持った。

「それは遅れて申し訳なかった。なにぶんこの地は不案内ゆえ。」

「不案内ゆえに、いきなり決闘などなさったのでございますか?」

「!!」

ホホ、と口に手を当て笑いながら、クリス殿は言葉を続けた。その仕草が妙に大人っぽく見えた。

「あのアマンダというリザードマンは、この街では有名な暴れ者でした。街に居住しているわけではないので、夜盗のような存在ですが、心ある人達は魔物と人間との共存関係にヒビが入りはしないかと憂いていたのです。それを...あ、着きましたわ。」

「こちらが入口か。」

話の続きが気になるが、まずはこれから世話になる方々に挨拶をせねばな。

引き戸を開けてくれたクリス殿に目礼し、道場玄関に足を入れる。・・・・おお、なんという草鞋の数か!!ん?草鞋ではないな。ジョロウグモの糸で編んだかのような。この地にもクモの妖がおるのだろうか。数はざっと見ても100足はある。自分の高下駄を脱いで隅へ置き、足を拭っていると、

「カルマ様、暫くお待ちくださいませ。」

足早にクリス殿が道場へ入って行った。というか名前を間違えておられる...。やはり発音しにくいのか?...と、すぐに戻って来た。

「どうぞ、皆待っておりますわ。」

「それでは...。」

一礼して道場へと足を踏み入れる。広い広い道場。俺の道場などの比ではない。ずらりと門人が並び上座に一人の偉丈夫が座っている。あの筋骨隆々の金髪男がユライア殿か...。まずは挨拶と遅れた詫びをせねば。俺はユライア殿と適度な距離を取って着座した。いつの間にかユライア殿の側にクリス殿が座っていた。

「拙者、ジパングはコジョウより参ったカズサ・ワタライと申す者。これより3年間お世話になり申す。粗忽者ゆえご迷惑をおかけ・・・」

「アマンダに嫁にしろ言わしめたンはホンマか!?」

「・・・は?」

口上を中断された上にとんでもない質問をされてしまった。

「アンタぁ、ものすごう強いらしいやないか!あのじゃじゃ馬ぁ、別嬪やけどエライ強いんや。ワシも手籠にしよう思うたけど、殺される思て逃げたことあんねや。あ、ワシがユライアや。よろしゅう。」

ガハハハ!と豪快に笑ってペコリと頭を軽く下げるユライア殿。門人達も、何人か笑いをこらえ
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