「何とまあ異国というものは...。」
道場へ行く道すがらに街並みを眺めているのだが、本当に遠い国へ来たと思う実感が湧いてきた。慣れ親しんだ長屋なんてものはない。煉瓦造りの大きな建物で、蜂の巣のように分けられた部屋に住んでいるという形が多いようだ。しかし一番感銘を受けたのが、
「何と妖(あやかし)の数の多いことよ...。」
ジパングでは妖怪とも物の怪とも呼ばれていたが、この街では普通に暮らしているのだ。もちろんほとんど全てがジパングでは見たこともない妖だが。ジパングでも昔のように迫害されるようなことは無いが、今でも頭の固い連中には偏見が根強く残っている。ちなみに俺は何とも思っていない。同じ生きとし生けるものであるからだ。それに、俺はかつてアカオニに稽古をつけてもらったこともあるし、誘惑に屈したことも無いのだ。
「あらぁ貴方、変わった格好ね?」
「む?」
いきなり声をかけられた。ここでは町人が武士に声を掛けるのが普通なのか...いや異国であるからな。
「どこから来たの?」
下半身が蛇のとてつもない美人だ。美しさではジパングのジョロウグモと双璧をなすだろう。もちろん染射羅様は比較対象外だ。畏れ多い。
「拙者、ジパングはコジョウより参ったカズサ・ワタライと申す者。これより3年間、武神館にてお世話になる。以後お見知りおきを...。」
「まあ!ジパングの方。初めて見るわ。私はルビー・テイト、見ての通りラミアよ。」
「左様であるか...。」
なんだかジロジロ見られて居心地が悪い。
「あぁ良い男ねえ。ねえ武神館の場所は分かるの?案内してあげましょうか?」
「御好意忝い。されど、もう少し街並みを眺めていたいので。」
折角の美人の好意だが、俺は染射羅様を裏切るわけにはいかないのだ。
「そう、残念ねえ。そうだわ、私この街でお店をやってるのよ。落ち着いたら是非一度いらっしゃいな。」
蛇の麗人はそう言い。小さく硬い紙を手渡してきた。字は良く分からないが、地図が書いてあるのでまあ理解は可能だ。店の紹介なのだろう。
「では折を見て。」
小さく会釈をする。
「待ってるわよぉ、カズザさん。」
...微妙に名前を間違えられてしまった。発音しにくいのだろうか?
美しい蛇の女性が去った後、人々の目線が私に集まっているのを感じた。やはり羽織袴は目立つのだろうか。帯刀している人も見かけないし(許可はもらっている)、高下駄を履いているのももちろん俺だけだ。月代は剃っておらず、総髪を元結で束ねている。珍しいのだろうな。郷に入れば郷に従えという。だが俺は、今の格好を変えるつもりは全くない。俺は故都コジョウに誇りを持っているのだ。それに何より....懐に手を入れて匂い袋の感触を確かめる。羽織には染射羅様の匂いが染みついている。手放す気になどなれない。あぁ堅固でお暮らしであろうか染射羅様...。
「おい!」
「・・・」
「おい!聞いているのかお前!」
「…何用かな?」
俺は少し不機嫌に答えた。折角染射羅様への思慕の情に浸っておったというに。
「妙ちくりんな格好をしてるが、強そうだな。私と闘え!!」
腰に大剣を差した、美しい女子。が大きな尾や鋭い足の爪が、この女子が妖であることを物語っている。しかし何という乱暴な論理であろうか。強そうだから闘えとは。
「御無用になされよ。ここは街中でござるぞ。」
「ふうん。ビビったのか?ここでは決闘は許可されてるんだ。」
「決闘?それがしとそなたが決闘をする理由などは無い。」
「勿体ぶってんじゃないよ!みんな場所をあけな!!」
蜥蜴のような女子の一声で、皆が一斉に動いて空間を作った。どうやら良くあることのようで、慣れているようだ。
後で知ったことだが、決闘は許可されているものの、役所に届け出た上で、指定された日時に、役人の立会いの下でなければ行ってはいけないらしい。が、最近は守ろうとしない輩が多いとのことだ。血気の若者はどこの国でもいるということか。
「闘いたくはないが...。」
だがこれ以上拒否をすれば侮辱されるだろう。コジョウの武を代表する俺が侮辱されるということは、コジョウ、ひいては染射羅様を...。それだけはこの命に代えても許さん。
「相手になろう。参られい。」
俺はそこらに落ちていた木の棒をひょいと拾い上げて構えた。
「なっ!お前なめてんのか!!このアマンダ・ベイズラーを!!」
「女子を傷つけたくはないのだ...。さあ、参られい!!」
「もう許さねえ。片腕切り落としてアタシの慰み者にしてやるぜ!!」
大剣を構えて突進してきた。
「喰らいやがれっ!」
軽くいなす。腰の入ったいい太刀筋だ。やはり妖の力は怖ろしいものだ。それによほど鍛錬を積んでいると見える。
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