第十一章 〜愛別離苦

「ふざけるでないわ!ライゼルめ!」

染射羅様の怒声が客間に響いた。

「落ち着いてくれよ。アタシは単なる使者なんだからさ。」

「じゃがあの男、何とも人もなげな…。叔母上の腰ぬけが!!」

「まぁ口上だけなら信用できんけど、一応手紙もあるし署名もなぁ....。内容だけ見たらゾイラ様に喧嘩売っとるとしか思えんけど。」


アマンダ殿はニーナ様からの使者であった。
その内容はハーモン州からの強請りに屈したようなもので、俺を駐在武官としてハーモン州へ派遣せよ、というライゼル卿からの一方的な要求を受け入れたものだった。そしてさらに染射羅様を激怒させたのは、「随行者は不要、もしくは男一人のみ可」という無茶苦茶な指定だった。しかも、近日中に迎えの馬車がやってくるからそれに乗れという。尚、断った場合は、後日開催予定の闘技会への参加を見合わせる、ということを丁寧な修辞で書いており、暗に交流断絶を匂わせている。


「こんな州、滅ぼしてしまえばよいではないか!!獄竜に命令すれば1日で片が付くわ!!」

「まぁ落ち着きーな。そんなんしてもうたら、魔物と人間の共存なんか言うてられへんでぇ。」

「黙れ筋肉豚がっ!!」

「ブ、ブタ…。」

「染射羅様、落ち着かれませ。一紗はここにおりますゆえ。」

そっと染射羅様の手を握る。こんな時は冷静な染射羅様の頭脳が頼りなのだ。落ち着いて頂かねば。

「染射羅様、我らの心は…。」

「…一つじゃ。」

二人の合言葉。染射羅様の肩から力が抜け、気品に満ちた穏やかな表情に戻った。

「…うむ、そうであるな。どこにも行かせはせぬ…。ユライア、少し言い過ぎた。許せ。」

「ブヒッ!」

ユライア殿は少し拗ねているようだ。

「しかしカルマ様一人を得るために、なぜこんな大がかりな脅しまで…。」

クリス殿が疑問を口にした。確かに、俺一人を得るためだけにここまでやるのは大仰過ぎるような気がする。

「それは、それだけの価値が一紗にあるということじゃ。」

冷静に話し始める染射羅様。皆が一斉に振り向く。

「一紗は国主アリシア様の嫡孫、つまり後継者と目されている妾の許婚じゃ。そして、妾が心から愛していることをライゼルは十分に知っておるであろう。つまり、駐在武官という体の良い人質として手元に置くことが出来れば、政治的価値は計り知れぬ。もっとも、ライゼル自身が一紗を側に置きたいというのもあるじゃろうが。」

さらりと言われたが、愛しているという言葉を聞いた俺は、嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。

「そういうことでございますか。何やらムカッとしますがまぁ分かりました。」

少し不機嫌な顔のクリス殿。

「せやけど駐在武官なんて今までおったんかいな?あんま聞いたこと無いけどなぁ。」

復活したユライア殿が疑問を口にする。

「統一される前、独立状態のころはあったと聞いておる。ライゼルめ、もうハーモン州のみは独立した気でおるわ。人を食った老獅子じゃ。随行者は不要というのも、完全に人質、もしくはハーモンの騎士にしてしまうつもりであろう。」

「しかしこのような無体な要求、何故ニーナ様はお受けになったのでござりましょう?」

「簡単なことよ。妾と一紗を切り離すことが出来る上、公然と一紗を間諜としてハーモンへ送り込むことが出来る。あの狡猾な女なら受け入れるに決まっておる。……もしや裏でライゼルと取引があったのやも知れぬ。気に入らぬな。」

「なるほど…。」

「獄竜よ、そなたはどう思う?」

庭で寝そべっている獄竜にお声をかける染射羅様。

(…裏取引の真偽は分かりませんが、行けば一紗は容易に帰って来ることはできないでしょう。)

「そう、要はそれよ。それが妾にとって重要なのじゃ。誰が行かせるかっ!」

「えっ、グロリンは何て言っとるんでっか?」

獄竜の声は染射羅様と俺にしか聞こえないのだ。

「ユライアの肉が美味そうじゃと言っておった。」
「なんでやねん!!」

「まあともかく、妾がおる限りこのようなふざけた要求は受け入れぬ。一紗は妾と幸せに暮らすのじゃからの。」

「あのー、アタシ返事を持ってくるように言われてんだけど。」

少し困った顔のアマンダ殿。

「必要無いわ。そもそも、そなたを使者として寄越すという芸の細かさが気に食わぬ。他の者なら追い返されようが、縁のあるそなたの話なら聞くと踏んだのであろうな。一紗の身辺を調べ上げておる。あのババ....女め。もうこの話は終わりじゃ!!迎えの馬車は獄竜に粉砕させてやるわ。」

「なんや、結局こんだけ話してスルーで終わりかいな。」

「放っておくがよいわ!妾はこれから昼餉の支度という大事な仕事があるのじゃ。叔母やライゼルの思惑など知った事か!」

重苦しかった雰囲気を染射
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