第六章 〜角と翼と尻尾と愛と

「......ん?」

夜明け前、目を覚ましたユライアが隣室のクリスの様子を窺うと、当の娘は部屋にはいないようだった。

「まさか、変に思い誤ってへんやろなぁ。」

感情量が人の数倍多い娘だけに、父として少し心配になった。

「可愛い娘なんやが、これだけはどもならんのや。」

一紗と染射羅のこと。ユライアも一紗を大いに気に入っていた。許嫁である染射羅の存在さえなければ、クリスの背中を思いっきり押してやりたいところだが、

「まあどもならん、どもならんわ。」

あの一紗と染射羅の異常なほどの絆の固さを見て、ユライアはこの男らしく至極あっさりと諦めた。

「どこ行ったかいな。ま、あそこやろ。」

ボリボリと尻を掻きながら、ユライアの巨体がゆらゆらと廊下を渡っていった。







「やっぱりなぁ。」

やはり愛娘は居た。一紗の居室の前に項垂れるように座っていた。

「ほれ、クリス。部屋戻ってちょっと寝ぇや。」

肩をポンと叩くと、ゆっくりクリスは顔を上げた。

「.......。」

夜通し泣いていたのか、目が真っ赤だ。

「.......敵いませぬ。」

「はん?」

「ゾイラ様には敵いませぬ。」

何かまた争ったのか?と思ったユライアだが、居室に踏み込んだ様子はなさそうだ。

「どないしたんや、なんかあったんか?」

やさしく愛娘の頭を撫でてやった。

「カルマ様は、ゾイラ様を妻として、母として思って....。」

「....ほーん。」

何やらよく分からないが、決定的な差をつけられたのか。

「せやけど盗み聞きは良うないで。ほら、立つんや。行くで。」

「はい、あっ足が.....。」

長時間の正座で足の感覚が無くなっているようだ。

「しゃあないのう。ほれ。」

木の幹のような腕で軽々とクリスを持ち上げ、背中に負ぶさらせた。

「......。」

いつもなら恥ずかしいと文句を言うだろうが、今は何も言わない。






「なあ、クリスぅ。」

「......。」

再びユライアの巨体が廊下をゆらゆら渡ってゆく。

「ジパングさんは諦めぇ。ありゃどもならんわ。」

「......父上様。」

「なんや。」

「これから、カルマ様ほどの方に出会うことはあるでしょうか?」

「まあ、ないやろな。せやからゾイラ様は離さへんのやろ。」

あっさり答えてしまうユライア。実際そう思うのだから仕方がない。

「親父としてはもうちょいやさしい言葉を掛けるべきなんやが、どもならん、としか言いようがないわ。すまんの、身体がデカイだけの親父で。」

ガハハ、と笑うユライア。

「本当に。」

くすっ、とようやく笑ったクリス。なんだかんだ言いつつも、この親子も固い絆で結ばれているのだった。














「ん.....染射羅様。」

目を覚ますと俺は染射羅様の胸に抱かれていた。
あの母上との時間、あれは夢だったのだろうか。いや、そうではあるまい。あれは染射羅様の....。

「起きたか、一紗。」

「はっ、御無礼を。」

もう染射羅様は起きられていたようだ。慌てて身を離そうとしたが、がっちり頭を抱えられ身動きできない。

「もう気付いていると思うがの....。」

「はっ。」

「妾は人間ではない。妖....ではある。高貴じゃがの。」

「.....。」

やはりそうであったか。

「どう思う?」

「.....どう、と申されましても。」

特に俺に感想はない。アカオニや危険なウシオニが俺の修行相手だったこともあるのだ。

「怖ろしいとか、気持ち悪いとか、何とかかんとか思わぬのか?」

「特段。」

「なんじゃそれは!妾はこれでも決死の思いで言っておる。何か言わぬか!感想を!!」

頭を抱える腕に力を込められた。恐ろしい力でギリギリと頭が締め付けられる。

「ごっ、ご勘弁を。ご勘弁を染射羅様!」

「何か言え!言うまで許さぬ。」

「い、言いまする、言いまする故....。」

すっ、と力が緩められた。....正直頭を割られるかと思った。

「それでは一言。」

染射羅様の腕から抜け出し、正座の姿勢を取った。染射羅様も同じ姿勢を取られた。夜具の上で正座で向かい合う二人。噂に聞いた新婚初夜のようだ。

「ん、言うがよい。」

やや緊張した面持ちの染射羅様。では伝えよう、簡潔な言葉で。



「愛しゅうござる。」

「!!」

「以上にござります。」

少し恥ずかしいが、これが俺の率直な気持ちだ。

「もうこれ以上は野暮でござる。お聞きくださいますな。」

真剣な表情で染射羅様の宝石のような瞳を見つめた。

「ただ....。」

と俺は言葉を継ぐ。

「拙者の心の穴を、つらき過去を、染射羅様が救って下された。手前は染射羅様に生かされてお
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