「......ん?」
夜明け前、目を覚ましたユライアが隣室のクリスの様子を窺うと、当の娘は部屋にはいないようだった。
「まさか、変に思い誤ってへんやろなぁ。」
感情量が人の数倍多い娘だけに、父として少し心配になった。
「可愛い娘なんやが、これだけはどもならんのや。」
一紗と染射羅のこと。ユライアも一紗を大いに気に入っていた。許嫁である染射羅の存在さえなければ、クリスの背中を思いっきり押してやりたいところだが、
「まあどもならん、どもならんわ。」
あの一紗と染射羅の異常なほどの絆の固さを見て、ユライアはこの男らしく至極あっさりと諦めた。
「どこ行ったかいな。ま、あそこやろ。」
ボリボリと尻を掻きながら、ユライアの巨体がゆらゆらと廊下を渡っていった。
「やっぱりなぁ。」
やはり愛娘は居た。一紗の居室の前に項垂れるように座っていた。
「ほれ、クリス。部屋戻ってちょっと寝ぇや。」
肩をポンと叩くと、ゆっくりクリスは顔を上げた。
「.......。」
夜通し泣いていたのか、目が真っ赤だ。
「.......敵いませぬ。」
「はん?」
「ゾイラ様には敵いませぬ。」
何かまた争ったのか?と思ったユライアだが、居室に踏み込んだ様子はなさそうだ。
「どないしたんや、なんかあったんか?」
やさしく愛娘の頭を撫でてやった。
「カルマ様は、ゾイラ様を妻として、母として思って....。」
「....ほーん。」
何やらよく分からないが、決定的な差をつけられたのか。
「せやけど盗み聞きは良うないで。ほら、立つんや。行くで。」
「はい、あっ足が.....。」
長時間の正座で足の感覚が無くなっているようだ。
「しゃあないのう。ほれ。」
木の幹のような腕で軽々とクリスを持ち上げ、背中に負ぶさらせた。
「......。」
いつもなら恥ずかしいと文句を言うだろうが、今は何も言わない。
「なあ、クリスぅ。」
「......。」
再びユライアの巨体が廊下をゆらゆら渡ってゆく。
「ジパングさんは諦めぇ。ありゃどもならんわ。」
「......父上様。」
「なんや。」
「これから、カルマ様ほどの方に出会うことはあるでしょうか?」
「まあ、ないやろな。せやからゾイラ様は離さへんのやろ。」
あっさり答えてしまうユライア。実際そう思うのだから仕方がない。
「親父としてはもうちょいやさしい言葉を掛けるべきなんやが、どもならん、としか言いようがないわ。すまんの、身体がデカイだけの親父で。」
ガハハ、と笑うユライア。
「本当に。」
くすっ、とようやく笑ったクリス。なんだかんだ言いつつも、この親子も固い絆で結ばれているのだった。
「ん.....染射羅様。」
目を覚ますと俺は染射羅様の胸に抱かれていた。
あの母上との時間、あれは夢だったのだろうか。いや、そうではあるまい。あれは染射羅様の....。
「起きたか、一紗。」
「はっ、御無礼を。」
もう染射羅様は起きられていたようだ。慌てて身を離そうとしたが、がっちり頭を抱えられ身動きできない。
「もう気付いていると思うがの....。」
「はっ。」
「妾は人間ではない。妖....ではある。高貴じゃがの。」
「.....。」
やはりそうであったか。
「どう思う?」
「.....どう、と申されましても。」
特に俺に感想はない。アカオニや危険なウシオニが俺の修行相手だったこともあるのだ。
「怖ろしいとか、気持ち悪いとか、何とかかんとか思わぬのか?」
「特段。」
「なんじゃそれは!妾はこれでも決死の思いで言っておる。何か言わぬか!感想を!!」
頭を抱える腕に力を込められた。恐ろしい力でギリギリと頭が締め付けられる。
「ごっ、ご勘弁を。ご勘弁を染射羅様!」
「何か言え!言うまで許さぬ。」
「い、言いまする、言いまする故....。」
すっ、と力が緩められた。....正直頭を割られるかと思った。
「それでは一言。」
染射羅様の腕から抜け出し、正座の姿勢を取った。染射羅様も同じ姿勢を取られた。夜具の上で正座で向かい合う二人。噂に聞いた新婚初夜のようだ。
「ん、言うがよい。」
やや緊張した面持ちの染射羅様。では伝えよう、簡潔な言葉で。
「愛しゅうござる。」
「!!」
「以上にござります。」
少し恥ずかしいが、これが俺の率直な気持ちだ。
「もうこれ以上は野暮でござる。お聞きくださいますな。」
真剣な表情で染射羅様の宝石のような瞳を見つめた。
「ただ....。」
と俺は言葉を継ぐ。
「拙者の心の穴を、つらき過去を、染射羅様が救って下された。手前は染射羅様に生かされてお
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