〜追憶〜

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温かく大きなものに包まれているこの感覚.....。
全身が温もりに包まれて溶けていくような.....。
心の底から安心できる。自分が愛されていると実感できる。

この感覚は、幼き日の...あの頃の。夢なのか。夢なのだ。








「はは....うえ。母上。母上。」

「どうしたのです、一紗殿?」

遠い遠い記憶から掘り起こされる母上の声。

「お聞きしたいことがあるのです。」

「まあそんなに息を切らして。何があったのです?」

少し咳き込む母上。だが俺は畳みこむように問いかける。

「母上は遠いところへ行ってしまうのですか?」

そうだ、母上は....。

「何をお言いです。母はどこにも行きませぬよ。」

温かい笑顔。そして懐かしい母上の匂い....。

しかし、

「ですが、父上が...母上は....母上は御病気だと。」

「....!」

「一紗は....母上と離れとうござりませぬ。行かないで下さいませ。」

「.....。」

「母上。約束して下され。決して一紗を置いてゆかぬと。お願いでございます。」

頬を涙が濡らしていく。そうだった、俺はいつも母上の前では泣き虫だったのだ。

「まあまあ泣き虫な一紗殿。母はいつでも一紗殿の側におりますゆえ、安心なさい。」

小さな俺を、微笑みながらあやしてくれる母上。俺は優しく美しい母上が誰よりも好きだった。だから母上の言葉を信じた。いや、その言葉に縋ったのだ。

「約束でございますよ、母上。」

「もちろんですよ、泣き虫さん。さあ、いつもの笑顔を見せてくださいな。」

「はい、母上。」

「一紗はわたくしの誇り。日の本一の男になるのですよ。きっと。」



「母上....。」




母上。






「母上....!?」

目が覚めた。やはり夢だったのか。今まで母上の夢を見ることなどなかったのに、何故こんな悲しい夢を....。
涙が溢れ、自然に嗚咽が漏れそうになった。

「一紗。」

月明かりだけの薄暗い部屋、俺の側で御寝なされていた染射羅様が俺を見つめていた。

「母の夢を見ておったのか?」

「は...はっ。情けなきところを。」

「よい....。」

急いで涙を拭おうとすると、染射羅様に頭を抱えられ、胸に抱き寄せられた。

「優しき母であったのか?」

「......はっ。」

「好いておったのか?」

「......はっ。」

何故だろう、染射羅様には臆面もなく答えることが出来た。

「そうか.....。」

染射羅様は優しく俺の頭を撫でてくれた。










「のう一紗。」

「はっ。」

どれだけ時間が経ったか、染射羅様が俺の名を呼んだ。

「妾はそなたの母の事が知りたい。良いか?」

「.........はっ。」

「うむ....。ではそなたは喋らずとも良い、妾に任せよ。」


すると、染射羅様は抱きしめる手を緩め、お身体を下にずらした。自然、俺と向き合う姿勢になる。月明かりで見る染射羅様は、何故か亡き母の面影と重なり、再び涙がこぼれそうになった。

「楽にせよ....。」

額と額がくっついた。染射羅様の意外な動作に驚いた。
が、次の瞬間、俺の心の奥底に仕舞い込んでいた記憶が一気に浮かび上がってきた!!







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幼き日より、俺は諸法の流派を極めた父上より武の手ほどきを受けた。幼児には堪え難い苦しき日々だった。同年代の子供達と遊ぶこともできず、ただひたすらに身体を苛め抜き、無双の武術者となるべく修行の日々を過ごした。

そんな俺にも一つだけ心の安らぎがあった。母上だ。若く美しい母は俺の自慢だった。母上は、いつも怪我だらけで帰ってくる俺をやさしく労い、傷の手当てをしてくれた。俺は母に甘えた。心の底から甘えた。父上はとても厳しいお人だったが、母上に甘えることだけは許してくれた。俺は時に厳格な父上を憎むこともあったが、母上の優しさを支えに修行に耐えた。



だがそんな日々は唐突に終わりを迎えた。それは俺が9歳になったばかりの頃。
父上から聞かされた。母上は労咳だと。不治の病であり、側で暮らす者に感染るかもしれぬと。遠い遠い里へ帰って養生をすると。そして、それは母上自身の希望であると....。


子供心に事の重大さは十分理解できた。が、反面俺には理解できなかった。母が俺の前から去るということをだ。いや理解しようとしなかった。受け入れることが出来なかったのだ。それほど俺は母上に依存していた。


俺はすぐに母上にお願いした。行かないで欲しい、側にいてくれと。すると、母上は意外にも簡単に承知してくれた
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