「染、染射羅様...。」
「一紗。妾は逢いたかった。ずっとな。」
染射羅様が潤んだ瞳で俺を見つめる。2人の間だけ時間が止まったように。
じっと見つめ合う。
最初は頭が真っ白だったが、思考が戻ってくると慌てて平伏した。しかし声は出てこない。お顔を見るのはひと月振りほどであったろうか。
「一紗、面を上げよ。お前の顔を見せておくれ。」
染射羅様の優しい声が聞こえる。その声に誘われるように俺は顔を上げた。周囲の事など全く気にならない。
「見事な試合であった。そなたは無双の男じゃ。未来の婿として心強く思うぞ。」
「は、はっ。」
熱いものが込み上げてきた。喜び、思慕、愛、色々混じった俺の染射羅様への気持ち。
こちらへ向かって歩いてくる染射羅様。優しい声も一緒に近づく。
「のう一紗。このひと月、妾がどれ程そなたに逢いたかったか分かるか?いや、聞かせてくりゃれ、一紗は妾に逢いたかったか?」
「はっ....それは...。」
「それは...?」
母のような染射羅様の微笑み。胸がどんどん熱くなる。改めて分かる、俺はこのお方を心から...
「お、お逢いしとうござりました。ずっと....。」
言葉と共に、目から涙が零れ落ちた。平時なら侍が人前で涙を流すなどは唾棄すべきことだが、不思議と女々しいとも何とも思わず、温かい気持ちになった。
「一紗....。まあまあ何と可愛いや。」
俺の側にしゃがみ、白く美しい指で俺の涙をそっと掬う。染射羅様の目にも涙が溜まっていた。
「染射羅様....。」
2人の時間は止まったまま。止まったまま....だったのだが、
「カルマ様!!こちらの方はどなたでございますか!?」
クリス殿の大声で時が動き出した。呆然としていた皆もハッと我に帰る。
「こっこらクリス!!お前らも何しとんや!?このお方はコジョウのご領主、ゾイラ・サガワ様や!!やろ?モリ殿?」
慌てたユライア殿が森殿に尋ねる。
「その通りでござる。この度は姉妹都市交流の為に。表向きはな...。渡来殿は果報者よ。」
と、可々と大笑する森殿。
「やっぱそうか!お前らヘイフクせんかい!!無礼やないか!!武神館の中はジパングや思えて普段から言うとるやろ!!」
皆慌てて平伏する。最後まで立っていたクリス殿もゆっくりと膝を折った。が、平伏はせずじっと真剣な目で染射羅様の顔を見ている。
「クリスぅ!!平伏しろや!」
「よいよい、ここはジパングではないのだ。」
俺を見つめたまま染射羅様は話す。優しい瞳は変わらない。
「ところで....。」
と視線を俺から外してクリス殿へ。
「そこな娘。」
「はい。何でございましょう?」
染射羅様の視線を正面から受け止めるクリス殿。
「先ほどから一紗に対して馴れ馴れしい。一紗は妾の婿である。懸想しても無駄ゆえ、あきらめや。」
「っ!......。」
初めて聞く染射羅様の低くドスの効いた声。クリス殿も黙ってしまった。
しかし染射羅様は誤解しておられる。クリス殿が拙者に懸想しているなど...
「畏れながら染射羅様、クリス殿はそのような....」
「一紗や。純なそなたは何もわからぬのじゃ。黙っておるが良い。」
「・・・はっ。」
一撃で黙らされてしまった...。
「ま、まあゾイラ様。こんなむさ苦しい道場ではなんやから、別室で食事の後、茶室へ案内しますよって、こちらに...」
「おお、それはすまぬな。一紗ついて参れ。」
「はっ」
上機嫌に戻った染射羅様。俺もホッとした。
「お前らは稽古でもやっとけ!ささ、こちらへ。」
「何をしておる、一紗。早く来ぬか。」
「はっ!」
そして今は茶室。染射羅様、セラ親子、森殿、そして俺だ。
「茶室では上下関係はない。寛いで話が出来るの。これ一紗、妾の隣へ来ぬか。」
「はっ。」
ジパングの茶室より間取りが大きいとはいえ、決して広いとはいえない茶室。
お傍へにじり寄ると、染射羅様はその手をそっと俺の手に重ねられた。
「染、染射羅様...。」
「一紗...。」
また2人の時間が....
「ところで!確かモリ様はあと数日でジパングへお戻りになると聞き及んでおりますが、ゾイラ様もその時一緒に戻られるのですね!」
空気を裂くようなクリス殿の声。
「それは。」
と森殿が口を開く。
「確かに我ら使節団は数日後にはジパングへ戻りますが、染射羅様は我らとは来られた方法が違うのです。よって暫くはここ、クロームタウンに...。」
「方法が違う?どういう意味でしょう?」
「娘。口を慎むがよいわ。しゃしゃり出る女子ははしたないぞよ。」
「寛いで話せると言ったのはどなた様でございましょう?」
いきなり険
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