「なるほどなぁ。ジパングさんらしいっちゃらしいけど、信用して大丈夫なんかいな?」
「アタシもそう思うよ。あの領主さん、見た目に似合わずやり手らしいし。」
二人が揃えて口にするのはニーナ様に対する不信。
「お二人の意見、もっともであるが、拙者は禍根を残したくはないのだ。手前の我儘であることは百も承知。」
密書の内容はニーナ様からの俺に対する懇請だった。ライゼル卿の要求を拒むことは困難であり、俺に一年半の間ハーモンへ行って欲しいということ、そして、行ってもらえるのであれば、一族を挙げて染射羅様との将来を「祝福」すると書かれていた。祝福の意味を裏返せば、行かずばフロスト一族は染射羅様と俺の将来を保証しない、ということになるだろう。
「なんやねん、そんなもん脅迫やないか。気に入らへんな。」
「だよな。それに姫さんに何も言ってこなかったんだろ?大丈夫?色んな意味で。」
二人は納得してはいないようだが、俺はもう行くと決めた。一年半染射羅様と離れることは、俺にとって身を裂かれるように辛いことだが、どうしても俺は将来に不安要素を残したくなかった。そして、その負担を、近頃感情の起伏がますます激しくなっている染射羅様に掛けたくなかった。
「大丈夫、とは言い切れぬ...。だが、此度のことを相談するわけにもいかぬ故。」
「まぁあの姫さんだったら、一族皆殺し!とかいいそうだもんな。愛されてる分苦労するね。」
「ま、グロリンもおるし、大丈夫やろ多分。ホンマに多分やけど。ほんで、そろそろジパングさんが言っとった橋やけど...。あれか。」
町はずれの古い橋のたもと、そこにハーモンからの迎えの馬車が待っていた。
俺は一旦足を止めた。
「ユライア殿、アマンダ殿。今回のことは全て拙者一人の我儘である。行けば何があるかわからぬ。できれば...。」
「ええっちゅうねん!ワシは行くって言うたやろ。ワシは剣は下手やが肉弾戦は負けんでぇ。」
「アタシも殺されたってついてくよ!言うだけ無駄さ。」
考え直してもらいたい、と言おうとしたのだが、封殺されてしまった。
「...すまぬ。」
素直に頭を下げた。二人の好意に少し目頭が熱くなったが、ぐっと堪えた。
「いいってもう!...ん?こっちに気付いたみたいだ。」
話し声が聞こえたのか、馬車に待機していた御者がこちらへ向かって歩いてきた。
顔は見えないが、かなりの大柄で、歩幅、動作から察するに若者、そしてその足運びは...。
「お二方、あの者...。」
「なんかヤバイでぇ。足音も立てずに歩く御者なんかおらへんはずやし、それになんとのうかなりの使い手っぽいで。」
その間にも御者は足音も立てずに距離を縮めてきた。
その距離20間、15間、10間!!
「!!」
3人がそれぞれに散開し、咄嗟の迎撃態勢を取った。
「待て...」
「?」
どこかで聞いた、低く響くような声。
「いきなり御者を殺そうとするとは、物騒だな。」
月明かりに照らされたその顔は、
「刀を納めてさっさと馬車に乗れ...」
ハーモン州領主、ヴィトー・ライゼル、その人であった。
朝が訪れ、陽の光に照らされる武神館。いつもと変わらぬ光景ではあるが、
「一紗...なぜ...。妾を...そんな。」
昨日まで一紗と暮らしていた客間で座り込み、魂が抜けたような表情で呟く染射羅。
あれほど強く掻き抱いた愛しい一紗はもうおらず、その身辺道具が消えていた。
即ち、一紗は染射羅の下から去ってしまったのだ。
「一紗、一紗...。馬鹿な。そんなはずが...。」
あまりの衝撃に、一刻経った今でも現実を受け止めることが出来ていないようだ。
その様子を、少し離れて廊下から見守っている、残されたクリスをはじめとする武神館の面々。慰めたいのは山々だが、染射羅の恐ろしさを知っているだけに、声をかけて良いものか逡巡していた。
「あれ、どうしたのコレ...?」
丁度そこへ、武神館を遊びに訪れたマリーが、勝手に上がり込み、案内も乞わずちょこちょことやってきた。
「あれ、マリーさんじゃん。ジパング先生に会いに来たの?」
「これは!マリー様、でございましたね。カルマ様に会いに来られたのでしたら、もう...。」
少し驚いた表情でクリスとクーニャが声を掛けた。
「うん、そうなんだけど...。お兄ちゃんはどこ、っていうかお姉さま御乱心?」
「いや、なんつーか、アタシもアマンダ様からの置手紙呼んでビックリしたんだけどねぇ〜」
「!?」
その時、茫然自失となっていた染射羅がクーニャにクルリと向き直った。
「何ぞ!?一紗はまさかあのアマンダとかいう蜥蜴女が!?」
「ち、違う違う!違いますよっ!!」
自分達の首領を勘違いで惨殺されて
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録