迂闊だった。
別に日常の性生活に不満があるわけではない。
むしろその逆で、彼女とのまぐわいはこれ以上の無い至福と快楽の時間である。
でも。
でも男には色を好む瞬間がどうしても出てきてしまう。
魔物娘のような彩り豊かな女性に対しては特に。
「説明、してもらいましょうか」
にこやかな顔はそのままに、恐ろしいほど低い声色で言葉を発する鰻女郎。
彼女は寧々さん、私の妻である。
「お、お散歩を、少々」
「あら、夜も更けた頃合いにラブホ街の前を<女性と二人で>お散歩ですか。それは随分と健康なこと。……何か釈明は?」
「し、しかし寧々さん…。私も悪気があったわけじゃ…」
「何か釈明は?」
「はい、すみませんでした」
眼前に広げられる浮気の瞬間を捉えた写真の数々に、あらゆる弁明の言葉が効力を失う。
最近の私の言動を怪しんだ寧々さんがご友人であるクノイチ氏に探偵依頼を出していたらしい。
鰻であるはずの彼女が最早蛇にしか見えず、私は睨まれた蛙のように怯えながら謝罪をするしかなかった。
そう、私は先日、生まれて初めて浮気をしたのだ。
◆
お相手は妖狐のスズさん。仕事帰りに立ち寄った居酒屋の女将さんである。
……というのは建前で、実のところはスズさんの妖力によって客と女将の関係を幻覚として見せられていた。
そして本来存在しない居酒屋で酒を飲み、酔った勢いで……というのが事のきっかけである。
妖狐というのは往々にして性技に優れている、と妖狐の奥さんを持つ友人が話していた。
なるほどそう思うのも必然だと言わんばかりに私はスズさんの手から口からその膣に至るまで、あらゆる手段をもって吐精する羽目になった。
ある時はキスで口を抑え込まれながらの手コキ。
ある時は腰をガッツリと掴まれ、腰を引くあそびも無いままに口で絞られ。
またある時はうねうねとした膣ひだと程よい締付けによる快楽の蜜壺で果てを見る。
要は襲われた訳だが、寧々さんと同じ豊かな乳にムチっとした体つきで手練手管の弄するままにあっという間に虜にさせられ、私自身スズさんとの逢瀬は吝かではなかった。
後ろから抱きつき、着物に手を入れて胸を揉みしだいてやると見た目にそぐわぬ可愛げな声を出すものだからついつい調子に乗ってしまう。
抱けば抱くほど男冥利に尽きる思いになる至極の女というのは寧々さんも同様で、この二人は雄としての本能を引き出すのが上手いな、などと暢気に考えたこともあった。
違いがあるとすればヌメりのある肉厚な下半身で巻き付かれるか、7本の尻尾で優しくふわりと触られるかの違いくらいだろう。
当たり前だがこの二人とのセックスに対して、甲乙をつけるなどというのは不可能である。
私は寧々さんに巻き付かれるのがこの世の至上だと思うほどに好きだし、スズさんとの尻尾を掴みながらのセックスは有り得ないほどの嗜虐感を覚える。
自らを薄情だと思いつつも、既にインキュバスと化した私の肉体は迫りくる二つの肉壺を受け入れることしか出来ないでいたのだ。
結局はスズさんとの爛れた関係は寝込みを襲われた初対面時だけに収まらず、
「どうじゃ、わしの『はじめて』を貰ろうた気分は?」
「お主に伴侶がいることなど端から知っておる。じゃがその程度の障壁で惚れた男を諦めるほど妖狐は奥手ではないぞ…
#9825;」
「旦那様…
#9825;ふふ、生まれて400年。かつてないほどわしは幸せじゃ
#9825;」
とか何とか言われこの関係性は1週間続き──
今に至る。
◆
「まあ私も最初から分かっていましたとも。男友達の家で夜通し飲んだはずの夫が他の女性の匂いをまとって帰ってくるはずがないでしょう?」
「はい」
「例えば妖力に中てられて幻覚を見たまま逆レイプ…、とかそういうこともある時代ですから。そういう『被害』にわたしの素敵な旦那様が遭遇しないとも言い切れません」
「はい」
「本当に愛し合った夫婦なら『被害』を受けたとしても夫は妻だけを愛するはずです。決して『加害者』に靡いたり、そんなはずはありませんよね?」
「はい」
「旦那様、わたしのこと、寧々のことを愛していますか?」
「はい」
「ふむ…嘘はついていないようですね。では次の質問です、浮気相手の方のことを愛していますか?」
「……は…いいえ」
「ふむ…だ、そうですよ。“スズ”さん」
「え?」
「おぬじいいぃぃ信じておっだのにいいぃぃぃ」
「え?」
気付けば目の前には私が抱いたことのある二人の女性が存在していた。
一人は、柔和な笑みを浮かべる私の妻。
そしてもう一人は、400歳らしからぬ勢いでわんわんと泣き喚く私の浮気相手。
何をどうしたらこの場にスズさんがいるのか私の考えの及ぶところではなかったが、私を
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