青春と忍

先日、友人に彼女が出来た。
お相手は同じクラスのサキュバス娘。
彼女さんの一目惚れだそうで、4ヶ月間にわたりアタックを続けたところ友人がついに折れたらしい。

彼らから「付き合いはじめました」という報告を受けてまず頭に浮かんだのは、祝いの言葉よりも交際までの期間の長さへの疑問だった。
魔物娘、それも生粋のサキュバスであれば男などイチコロのようにも思うが。
一体全体どういうことかしら、などと考えていると

「最近は恋愛型の求愛が流行りだそうですよ」

と、我が部唯一の部員であるヒナさんが答えを教えてくれた。

「うわっ、ヒナさん帰ってたんだ」

「たった今こちらに。部長お疲れ様です」

部室の引き戸を閉じ、手にしていた書類を机に置くヒナさん。
彼女には放課後すぐの部活動会議に出席してもらっていたところだった。

「はいお疲れ様です、ヒナさん。…それで今言った恋愛...型?の求愛というのは」

「魔物娘たちの間で流行っている求愛過程、とでも言うべきでしょうか。なんでも人間同士の恋愛の如く、意中の殿方と時間をかけて仲を深めることでロマンチックな雰囲気を味わえるのだそうですよ」

近頃はプラトニックな出会いに憧れる魔物娘が増えているらしく、好きな人を襲いたい気持ちを抑えつつ清楚な純愛を楽しむのがトレンドなのだとか。
情欲を我慢しながらの恋愛期間は、魔物娘にとって永遠に愛し合うためのちょっとしたスパイスになるのだろう。
ヒナさんの周りにも「恋愛」に明け暮れる魔物娘は多いようで、最近のトレンド、というのは彼女たちから教えてもらった情報だそうだ。

「どうりで甘酸っぱい雰囲気が漂ってたわけだ…。なんだか青春しててイイですね」

(そういえば文化祭でも、体育祭でも、ついでにその他各種イベントでも、あの二人ずっと一緒だったな)

よくよく考えれば二人の動向にはいくつも心当たりはあった。
ただ当の本人からは「魔物娘と付き合っている」なんて話は一度も聞いていなかったので、恋愛に疎い自分からしてみれば友人がサキュバスとイチャイチャしているだなんて想像もしていなかった話だった。

「部長はそういうの、好きなんですか?」

するとヒナさんが興味ありげに、こちらを覗き込むようにして尋ねてくる。
僕の方に大きく踏み込んだ影響で、彼女の長く綺麗な黒髪がふわり、と揺れる。
職人がはたで織り上げたような髪の毛からは、心地良くもドキドキする香りが漂っていた。
整った目鼻立ちに透き通るほど白い肌。
パチリと開かれた目は僕の瞳を捉えて離さない。
未だに慣れない彼女の美貌に、僕は思わずたじろいでしまう。

「へ!?ま、まぁ憧れみたいなものはありますけど…」

「……なるほど」

意外な質問だった。
今まで友人の恋愛事情ばかりが頭にあったので、まさか自分のことを尋ねられるとは思っていなかったからだ。
その上、回答に対する反応が意味深すぎる。
まるでこちらの発言を参考にするかのような返事に、僕は否応なしに彼女を意識してしまう。

「で、でもなかなか僕はね…。あいつはスポーツ得意だし人付き合いもいいですから」

「そうですか?部長も素敵だと思いますよ」

「いやいや!自分なんて半分同好会の会長みたいなものですし!部員もヒナさんだけだし…」

「私だけではご不満ですか?」

「けっ決してそういう訳では!ほら!部員が多いと活動もはかどりますしね!」

「私は部長とご一緒出来るだけで幸せですよ」

「う、うお〜」

ああ言えばこう言う、の要領で僕はヒナさんにグイグイと迫られる。
気付けば言葉だけでなく物理的な距離も縮められており、先ほどまでほのかに感じ取れた彼女の匂いは、今や鼻腔を満たすほどに強くなっていた。
緊張と多幸感が同時に押し寄せては、理性の枷を外そうとしてくる。

少し腕を前に差し出せば触れそうな位置にまで“それ”は迫っていた。
ブレザーを押し出すほど豊かなふくらみ。
普段から隙あらばチラチラと視線を送っていたヒナさんの胸。

触りたい。

倫理とか理性とか知ったことではない。
放課後の部室。
二人きりの空間で。
部屋中に甘い空気が立ち込める。
目の前の女性はどうしてこんなに魅力的なのだろう…。

(僕は…)


「なーんて」


と、舌を出すヒナさん。
甘く張り詰めた部室の空気が元の穏やかな日常のものへと引き戻される。
ハッと我を取り戻すと、からかうような表情でヒナさんがこちらを見つめていた。
細く美しい唇からひょっこりと姿を見せる舌が妙に艶めかしい。

「すみません。部長の反応が可愛くて、つい」

「かわっ…!だっダメですよヒナさん!さっ、部活ですよ部活!来月は大会だって控えてるんですから、少しずつ準備してかないと」

普段の彼女から想像もできない一連の言動。
気にはな
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33