レイジの気持ちは?

昨日の晩御飯の時から、レイジの様子が変だった。
あの時からずっと何かを考え込んでいる。
どうしたのか聞いてみても「何でもない」って答えるし。
いつもより、寂しそうだ。
何だか不安だな。
好きな人でも出来たのかな?

いや、そんな筈ないよね!色恋とか興味なさそうだし、無愛想な表情してるし。

僕にだって反応してくれないし。……最近は。
はぁ、なんか憂鬱だな。
……さっきから似た様な事を繰り返し呟いている気がする。
何でこんなに悩んでるんだろう。
やっぱり、レイジが好きだから?
そうだよね。じゃなきゃあんなにアプローチしてないもん。
好きじゃなきゃ、血だってこんなに欲しくなる事は無いし。

「レイジは、僕の事好きなのかな?」

……あ。
僕はすぐに周りを見渡す。
そこには僕以外誰もいない。そうだ。僕は近くの山を調べに来てたんだ。
あの洞窟が何なのかを調べるために、そして元の世界に戻るために。

でも、今は戻りたいって気分じゃないな。
もっとレイジの傍に居たい。

僕はあの洞窟があった崖を見る。
でも、そこには当然洞窟なんて……。
「あれ、何で!?」
いつの間にか洞窟が出来てる!しかも、僕が通ってきたのと同じ奴!
僕は洞窟に近付いて入り口に一歩足を踏み入れる。
「少しだけど、魔力を感じる。何だろうこの洞窟?」
僕は一旦その洞窟から出て、辺りを見渡す。
でも、そこには誰も居ない。
誰かの魔法かな?でも、この世界には魔法自体存在しないし。
「あれ?」
この洞窟の魔力、この世界のどこかに繋がってる。多分、そう遠くない。
僕は山から街を見下ろし、この洞窟の魔力が繋がっている所を探す。
でも、さすがにここに留まった状態で見つけるのは難しいな。
「……あ、魔力が切れた」
僕はすぐに洞窟の方へ振り返った。
だけどあの日の様に、またいつの間にか洞窟が消えていた。



夜、俺はバイトから帰って、後から帰って来たアンと一緒に食事をして、風呂から上がった俺は自分の部屋のベッドに寝転がっていた。
「……今日は何も無かったな」
今日一日中、アンは何か悩んでいる様だった。そのせいか今日は何もしてこない。
何かあったのだろうか。少し、心配になってくる。
「…………」
最近、アンの事になるとなぜか感情がいつもより表れる。
どこか胸の奥がもやもやする。
今までに感じた事の無い気持ちが、徐々に大きくなっていく。
「何なんだろうな?この気持ちは」
俺は小さく呟いた。

……まぁいい。このまま寝よう。
と瞼を閉じた時、近くで音がした。
目を開くと、アンが俺の部屋に入ってきていた。
どうやら風呂上りらしく、金色の髪は結んでおらず微かに濡れている。
俺は起き上がってアンに尋ねた。
「アン?どうした?」
アンは俺の傍に近寄るとベッドの端に腰かけた。
「レイジは、僕の事好き?」
「は?」
アンからの突然の問いにこんな反応しかできなかった。
「だから、レイジは僕の事、好き?」
「……何でそんな事」
「どうなの?」
アンの眼が、強い意志を伴って俺を真っ直ぐに見つめる。しかし、どこか不安げな様子だ。
「…………」
しかし、急に聞かれても答えなんて出る筈もない。

「僕は好きだよ。レイジの事」

答えを出せずにいると、アンが自分の想いを俺に告げた。
「……どうして?」
会ってたった数日しか経っていないのに、どうしてお前はそんな事を言えるんだ?
俺の問いにアンは即答した。
「だって、見た目はカッコいいし料理は上手だし、普段は無愛想な表情のくせに変わると可愛いし、僕が何かすると怒鳴るけど優しいし!」
……突っ込みたい所はいくつかあったが、それよりも最後の部分が気になった。
「優しい?」
「そうだよ。可哀想だからって泊めてくれるし、料理を作るといつも褒めてくれるし、注意とかするくせに追い出そうとしないし、それに……」
アンは言葉に詰まる。だが、それでも何か言いたげだった。
数秒後、アンはやっとの想いで続けた。
「……いつも、寂しそうだし」
その声は、酷く小さかった。
でも、俺の胸にその言葉が深く突き刺さった。
俺は寂しいのか?本当は人恋しかったのか?
他人を好きになった事も、嫌いになった事も無いのに。
「僕はレイジが好き。レイジは僕の事、どう思ってるの?」
「俺は……」
どうだろう?
俺は、コイツの事が好きなのか?
まだ、あって数日しかたっていない、この女の事が。
「…………」
なぜだろう?好きじゃないとは言い切れなかった。
俺にとって、アンは何だ?

「…………分からない」

「……そっか」
俺の答えに、アンは顔を俯かせた。
恐らく落ち込んだのだろう、と俺は思った。
だが直後、
「っ!おい!?」

アンは俺を押し倒した。

「『分からない』って事は、まだ『好き』にする事だってできるよね?」
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