今朝、遂に本当の事後を迎えてしまった。
目覚めればご主人様の寝顔が近くにあって、シャンプーの香りが仄かに鼻を刺激して、さらに抱き枕状態で、二人共全裸で汗だくで妙にイカ臭くてよく見ればシーツにも染みが付いていておまけにアソコがベタベタで。
「……ああ、これが事後ですか」
まるで夢みたいな一時を過ごした。
何だか幸せな時間だった。
ご主人様とこんな事になるなんて。
ご主人様とこんな事になるなんて…………。
「ふぃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
それから何日か経過し、ご主人様からお呼びだしを受けた。
ご主人様と顔を合わせると、先日の情事の記憶が浮上し、結局ご主人様を避ける様になってしまった。
次の日の朝も全裸だと言うのに構わず逃げ出してしまい、結局構って悲鳴を上げたのはまだ記憶に新しい。
私は深呼吸を一回し、覚悟を決め、コンコンとノックする。
「失礼します……」
「ああ、入れ」
領主部屋に入室すると、そこには神妙な顔をしたご主人様がいた。
「あの、ご主人様……」
「リリィ、先日の件で話があってな」
「ひゃう!」
また浮かんでしまったあの情景。
最近、あれ以外に目立った事案がないので簡単にたどり着く。
絡み合う身体混じり合う体温。与え合う快楽。
心臓が大きく脈打った。
「あ、ああ、あの、それで…………?」
「あの件がどういうわけかナイル夫人に知られてな」
「奥様に!?」
ご主人様は少し気まずいとばかりに頭を掻く。
「ああ。そのせいでお前のメイド人生が危機に直面している。『主人と関係を持ったメイドをうちには置いておけない』らしい」
「そ、そんな!」
私リリィ、メイド歴=年齢の純メイド。
そんな私がメイドを失業してしまったら、何も無くなってしまう。
「今、何とか交渉してるんだが、……ちょっと厳しいな」
「奥様はどの様に?」
「『考えさせてくれ』だそうだ。後で電話をかけ直すって言ってた」
ご主人様の表情から雲行きは怪しい。
うう、まさか奥様がそんな……。
まるで信頼を裏切られたかのように沈む心。
……いや、違う。
裏切ったのは私だ。
こうなるのも無理はない。
胸中で反省していると、突如電話が鳴る。
ご主人様はすぐに受話器を取り、耳に当てる。
「はい。ビルフォートです」
ご主人様は電話の相手に対し相槌を打ち、神妙な顔をする。
聴こえなくても分かる。相手は奥様だ。
「分かりました。申し訳ございません。……ではその様に」
電話が終わり、受話器を置く。
「あの、ご主人様?」
嫌な予感が、私の脳裏を過る。
「…………クビ、だそうだ」
そして、ご主人様の申し訳なさそうな表情が、私を絶望させた。
「……そんな、何でですか……?」
目元が熱を持ち、視界が滲む。胸は何かがわき上がったかの様に締め付けられ、嗚咽が溢れ、涙が頬を伝った。
「リリィ……」
ご主人様は腰を浮かせ、私に近寄る。
「私の何が悪かったんですか?…………ご主人様と関係を持ったからって、何故……メイドを辞めなければいけないのですか?」
悲鳴の様に溢れ出す感情が、止めどなく口から溢れる。
「私は…………、メイドとして育って来たんです!私にはメイド以外に道などないんです!こんなのって
#8252;」
物心つく前、両親が他界して、身寄りの無かった私は奥様に拾われた。
キキーモラだった事もありメイドとして育てられ、お嬢様達とも、姉妹の様な主従の関係を築いてきた。からかわれる事も多かったけど、幸せだった。
でも、それが今、崩壊した。
ご主人様にしがみつく。そうしていないと、辛かった。苦しかった。
「あぅ、……ぁああ……!」
ご主人様の胸に顔を埋め、泣いた。今までにないくらいに泣き出した。
「……ごめん」
ご主人様の優しい抱擁。
だが、それだけで傷付いた心がほんの少し和らいだ気がした。
「……落ち着いたか?」
「…………はい」
あのまま抱き合い、いつの間にか一時間も経っていた。
私はご主人様から離れ、空元気で笑ってみせる。
「……こんな泣き虫な私にお付き合い頂き、ありがとうございます」
「…………ごめん」
ご主人様は一層申し訳なさそうな表情をする。
「ご主人様?」
ご主人様は私から眼を反らした。
「……流石にやり過ぎたな」
ご主人様は私に聞こえない程小さく呟いた。
「ふぇ?」
「あー、その、まことに言いずらいんだが、再就職の話なんだけどさ」
「……あ」
『再就職』。その言葉が一瞬、私の胸を締め付ける。
そうだ。私はもう、職を追われたのだ。その事も考えねば。
「……はい」
「ナイル夫人と話をして、さっき就職先の件も話がついたんだ」
「え、どう言う事ですか?」
さっきの電話の応答だと、内容は私のクビの一件だけの様に聴こえたのだが。
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録