ミラが男を連れて来てから数時間後。
彼は目を覚ました。
「ん、ぁあ?」
「おや、起きたかい?」
「え?」
男は横たわった状態のまま顔を横に向けた。
彼の横たわるベッドには彼の他に女性が二人いた。
一方はぐっすり眠っているが、もう一方は彼の目と鼻の先で微笑んでいる。
瞬間、彼は絶叫した。
私が目を覚ますと、ミラが男を襲う光景が眼に入った。
「ちょっと待て!まずこの状況を説明して欲しいんだけど!?」
「良いじゃないか、説明は後でも。ただセックスしてくれるだけで良いからアダッ!」
「貴女は何してるのこの馬鹿!」
私は善からぬ事をしようとしているミラにチョップを食らわした。
「えっと、……お、俺はトニー・ウィリアムズ。年は19。アーカムって港町で漁業を営んでいる」
てんやわんやしていたこの場を修め、私は彼、トニーに自己紹介兼状況説明を行った。
まず彼が近隣で漂流していたこと。それをミラが拾ってきた事など説明し、今度はトニー自身の情報を聞き出していた。
「そのアーカムって?」
「小さい港町で、た、大抵は漁業で成り立ってる」
トニーは顔を赤くし、視線をあちこちへ行ったり来たりさせながら答える。
まぁ、無理もない。最近だと全然気にならなくなってしまったが、私達はまず魔物で、さらに全裸だ。落ち着ける筈がない。股間に妙な出っ張りもあるが整理現象だろうから放っておこう。
「漁業を営んでるって言ってたけど、事故でもあったの?」
「いや、親父とケンカして突き落とされた」
……なんてアグレッシブな父親なの。息子突き落とすとか信じられない。親の死を何とも思わなかった私が言えた義理じゃないけど。
トニーは一息吐いて私の後ろに眼をやった。
「……ところで後ろで縛られて興奮してる魔物はどうにかならないのか?気が変になりそうだ」
「気にしたら負けよ」
途端、後ろからミラの唸り声が聞こえて来た。
「ンン、ンンフ!」
そう。あの後、面倒事を起こさないようにミラを洞窟内にあった縄と布で縛り、口を塞いだのだ。そしてどういうわけか彼女は興奮している。
このまま唸られても鬱陶しいので口を塞いでいる布をとってやる。
「ん、っはぁ!」
上気した表情を浮かべ、湿った吐息が吐き出される。トニーは勿論さすがの私も息を呑んだ。
「貴女、何でそんなに興奮してるの。マゾなの?」
「どうせ縛るなら亀甲縛りとかの方が良かったよ」
答えになってないけど取り敢えず私の中のミラの変態度が上がった。
「でもアヤカ、男を前に興奮するなって言うのも無理な話だよ。あたしら魔物だよ?」
当たり前だろう?とミラは口を尖らせる。
そうだった。この世界の魔物は淫乱だった。元から変態度は高かったわけだ。
「むしろあんたはどうなんだい?」
「私は特に変わりないわ」
「変わってるね〜、あんた。魔物のまの字もないよ」
何だか憐れみを込めた視線を送ってくる。無性に腹が立つのは気のせいか。
「はぁ、とにかく。そのアーカムって所が何処か分からない以上帰る宛もないから、暫くは一緒に居ましょう」
そもそもこの洞窟が国の何処にあるかも分からないのに探せる訳もない。地図は有っても世界地図だし、恐らくアーカムの町も小さいと言っていたので載ってないだろう。
帰すには中々の月日が必要だ。
「帰す気ないよ」
「貴女は黙ってなさい」
彼氏を求めているミラには悪いがトニーも帰りたがっているーー
「帰る気ねえよ」
ーー訳でもなかった。
「……何で?」
「元々家が嫌で飛び出そうと思ってた。親父がいちいち煩くてさ、人に手伝いさせてるくせに『お前に漁師は向いてない』とか言われて、船で漁に出てるときにミスって、また文句言われたから言い返してやったんだ。そしたらケンカになった挙げ句に船から放り出されて今に至る」
「「…………」」
「頑張っても親父は一向に認めてくれなくて……。正直、突き落とされて良かったって思ってる。やっと家から出られたから、良い皮切りだったよ。最初は驚いたけど、ここに留まっても良いかなって思ってる」
トニーは俯きながら小さく笑った。だが、その中に複雑な心情が垣間見られた。
重い空気が私達を取り巻いた。同情したミラがトニーに話しかける。
「それは、辛かったね。まぁ、せっかく家から出られたんだから、うんと楽しもうじゃないか。あたし達も一緒にいるからさ」
「……ああ」
ミラの言葉に慰められはしたが、私の眼からはトニーの表情はまだ暗く見えた。
……仕方ない。
「トニー、貴方家族は?」
「親父だけだよ」
「そう。ならなおさら帰らなきゃね」
「「なっ!」」
私の言葉に、トニーとミラは二人して驚愕した。
「何でだい!?本人は帰りたくないっていってるじゃないか!」
「そうだ!だいたい親から突き落とされたんだ!俺なんかもう要らないってことだろ!」
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