控室に青年の姿を見つけると、私は彼の胸ぐらを掴み、壁に押し付けた。
「あれは何だ!?」
胸ぐらを掴まれているにも拘らず、カイルは相も変わらず笑みを浮かべていた。
「何って、あれはワイヤー、鉄線だよ。《鋼線》って言った方が正しいかな?」
握る手に力が籠る。
「そうじゃない!君が取り出した《黒い物体》の事だ!」
言うと、カイルは納得した様に笑った。
「あぁ、《これ》の事?」
カイルは懐から《それ》を取り出した。そう、これだ。私はこの武器を知らない。
「これは《拳銃》だよ。殺すための武器さ」
そんな事は分かっている。見れば殺すための物だと言う事はすぐ分かる。
そうじゃない。
「そう言う事を言っているのではない!何故殺そうとした!?」
「『殺す気でかかってこい』。そう言ってたから」
「それはあくまで『殺す気』でだろう!?本気で殺そうとするか!」
「クレア」
不意に声がする。振り向けばそこにはオルガが居た。オルガは気遣わしげな表情で首を振る。
私は柄にもなく舌打ちをした。腹が立つ。
本当に、何故主神様は私をこの男に遣わせたのか。
私はカイルから手を離す。
私はもうこの話を切り上げたかったのに、カイルは話を続けた。
「なら言い方を変えよう。あれが《殺し合い》だったからだよ」
「何だと?」
馬鹿かこの男は。本気で頭を疑いたくなる。
「この《入団試験》は人を殺すものではない!そんな事も分からなかったのか!?」
「知ってるよ」
「――ッ!ならっ!」
「だからですよ」
またも女性の声が横入りする。オルガとはまた別の声だ。
会場に繋がる通路から二人の人物が現れる。
一方はカイルの対戦相手であり、オルガのパートナーであるワタヌキだ。
そしてもう一方は、入団試験第二段階で審判をしていたヴァルキリーだった。
「どう言う事?」
私の代わりにオルガが尋ねた。
「彼らは、最初から私がヴァルキリーである事に気づいていたのです」
「何?」
「つまり、もしもの時、私が止めに入る事を承知で、だからこそ気兼ねなく《殺し合い》を行っていた。そうですね?」
「ああ」
審判の声にワタヌキは頷く。一方のカイルははぐらかす様に首を傾げるだけだ。
「理解、できましたか?」
審判は私に軽く微笑む。
「……ああ」
「納得は出来ていないようですね」
「……そうだな」
まったくその通りだ。
「なら、少し頭を冷やしてきなさい。その後ゆっくり話し合えば良いです」
「あぁ。そうする」
「では、この話は以上です」
審判は言い終えると、パンッ!と柏手を打った。
「結果発表は本日の夕方に行われます。放送が鳴ったら、この控室に集まってください。それでは」
審判はそう言い残し、私達に背を向けた。……のだが、
「あ、そうだ」
と声を上げ再び振り返った。
「何だ?」
「いえ、お互い自己紹介をしていなかったなと。参加者の御二人は存知ているのですが」
そう言えばそうだ。先ほどの出来事で失念していた。
私は姿勢をただし、それぞれ名乗った。
「失礼した。私は戦乙女のクレアだ」
「同じく、オルガよ」
私達の自己紹介の後、審判も同様に名乗る
「私は《カルベルナ騎士団遊撃隊》所属、戦乙女のエドナです。
――これから宜しく。四人共」
エドナは何とも眩しい笑顔を浮かべる。
それは、少し早い結果発表だった。
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