Chapter3.5 真紅の凶刃・中編

「ふぅ...それじゃあ"世直し"に行こうか」

この村には村正が必要だ
心の中で決意を固め、道端でまぐわう二人に背を向けて歩きだす






真久の家

「お邪魔してまーす」

「「ええっ!?」」


桜をいじめている主犯の一人、真久の家に堂々と彼女は忍び込んでいた
誰にも気配を悟られることも無くいきなり居間に現れる

「いきなり子供が現れたぞ!?なんなんだアあァ!?」
「この娘っ、もしかして真久の同級生の...一体どうやってここに...」

いきなり居間に人間が現れる
それも異様すぎる雰囲気を纏った息子の同級生の少女

真久の両親は動揺を隠せるはずもなく
すっかり青ざめて体を寄せ合って怯えていた

桜は自分では敵うはずの無かった大人をも屈服させ、心地よい優越感に浸り、
確信した、この刀の力は本物であると


「ちょっと屋根裏にですね...ってそんなことどうでもいいか
真久くん、ご在宅ですよね?それに凉灯ちゃんも」

「なっ!?息子に何をするつもりなんだお前!警官に...」
「アナタっ、この娘刀を持ってるわっ!真久っ!にげ...」


段々と二人に対して気だるそうにしていた桜が我慢できずに口を開く


「あーもう五月蝿いなぁ、答える気もないし
じゃあお二人から斬ることにしますね、一足先にさようなら
#9829;」


音を立てずにいつの間にか抜刀を済ませ、二人の眼前には真っ赤な業物が光る

年端もいかないボロを着た少女、しかし今まで見てきたどの村の剣客より
遥かに大きく見える気がした

「「ひいいっ!!」」

戦場、喧嘩など無縁の二人の夫婦はこのホンモノの殺気に耐えられるはずもなく
情けない悲鳴をあげることしか出来ることはない


「はぁ...魔剣も居合も必要なさそ...こんなオトナたちに怯えて従ってたなんてね、ムラマサ」


桜は刀に宿るもう一人の自分に語りかける
――そして


ザシュ

心底呆れた表情で軽く刀を横に薙ぐと夫婦の人間としての人生はあっさりと終わりを迎えた








真久の部屋


「ギャー!お前それ反則って言ったじゃん!」
「はっはーw勝負事に反則卑怯は褒め言葉じゃーwww」


真久と凉灯は居間で桜が彼の両親を切り伏せたことも知らず
呑気に遊んでいた

二人でせせらぎの村行きの汽車に親達に内緒で乗り
貯めた小遣いでお祭りの出し物の携帯ゲームを買ったのだ

田舎じゃとても買えないもので二人はすぐに熱中し、対戦を続けるため凉灯はお泊りだ



「やーやー二人共ー!楽しそうだねぇ」

「なっ!?」「きゃ!」



シュキィンッ...  ザスザスッ!



真後ろでいきなり大声を出した人物を確認するため反射的に二人は振り返る
しかし桜は二人の喉を悲鳴を発する前に一瞬で切り裂いた

「がっ...」「か...は...」



「魔剣・赫鶯」キンッ



ブシャアアァ!

「「!?!?!?」」



納刀と同時に喉から赤い精が噴水のように噴き出した


二人は勢い良く吹き出す血など見たことがないがこれは自分たちが斬られた喉から漏れているものだと、自分は死んでしまうんだと思わずにはいられない


人生、十と数年。金持ちの家に生まれた二人は幸せに生きてきた
桜を虐げ、好きな物を買ってもらい、好きな異性と仲良く遊ぶ

順風満帆、何不自由のない少年時代だった、きっとこれからも幸せに
そう思っていた



「「かひゅぅ...かひゅぅ...!」」



しかし、今夜
二人はかつてない絶望の表情で涙を流し、雨に濡れた捨て犬のような渦中にある


懸命に助けを乞い、叫ぶが声が出ない
力も抜けて立つことも出来ない


ヒュウヒュウと隙間風のような音が出るだけ、二人は目をあわせお互い同じ状況にあることに、この状況に救いの無いことを理解するとまた涙が溢れた


なぜか斬られたはずの喉の傷は塞がっていて血も出ない、死にもしない
しかし空気を吐き出すような声しか出ない、あんな刀で斬られて...声も...


二人はもうわけが分からない、分かることは3つ

桜がこれをやったこと
桜がこれから二人に対して復讐をすること



そして彼女をいじめた自分たちの救いようのない愚かしさ



もぞもぞ、かひゅぅ!!かひゅうぅぅ!



「くすくす...
#9829;」

打って変わって二人を斬った桜はご満悦の表情
二人がもがく姿を見てサディスティックに嗤う


「真久くぅ〜ん、また私の着物をバカにしないの?
凉灯ちゃぁ〜ん、またいつもみたいにケラケラしないの?」


二人はやはりいじめの復讐なのだと再認識
幼いながらも己の行動に後悔と懺悔を込めて二人は必死で頭を下げた

何度も畳に頭をこすり付け「ごめんなさい、私が悪かったです」と
空気が抜けるよう
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