前篇

日が落ち、暗闇が立ち込める寝室で一組の男女が褥を共にしている。

「美嘉…愛しているよ…」
藤堂崇は床に敷かれた布団の上に横たわり、愛する妻の美嘉を見上げながら愛の言葉を囁く。すると彼女も瞳に情欲を浮かべながら親愛を口にする。
「私もです…旦那様。この世の誰よりも、お慕いしております
#9825;」
間接照明の光を受け、闇の中に怪しく浮かび上がる美嘉の顔が愉悦に歪む。
崇にまたがる妻は息をのむほど美しい。シミ一つない雪のような白い肌をした面長の瓜実顔、やや憂いに沈む重たげな瞼から覗く漆黒の瞳、端正な鼻梁から延びる可愛らしい小鼻、紅をさしていないのにそれ以上に可憐に発色する赤い口唇。そしてそこから視線を下していくと、成人男性の手からも悠々と零れ落ちてしまうほど大きく柔らかな乳房が待ち受ける。しかし決して太っているわけではなく、腰などはまさに柳腰というやつだし、足などは健康的でひきしまった筋肉美を保持している。彼女の体で胸以外に、ぜい肉は全くと言ってもいいほどついていない。そんな誰もが美しいと認めざるを得ない肉体は彼女が人ならざる者、魔物娘であることを雄弁に語っていた。

シュル、シュル…
「あぁ…美嘉、美嘉ぁ…」
だが毛娼妓である妻の魅力は、それだけではない。
「今日も、私の髪で…包んであげますね
#9825;」
言い終わるや否や、彼女の美しい髪が意思を持つように動き始めた。
その髪の毛こそが、もっとも簡単に崇を狂わせる。全身を覆うことができるのではないかと思うほど長い美嘉の髪の毛は、それまで触れたどの髪の毛や体毛とも違っていた。人間や他の魔物娘にあるはずのキューティクルを全く感じさせない、まるで最高級品のベルベットをさらにつややかにしたような手触りだ。しかもそれは同時に今まで嗅いだことのないような優しい香りを発している。彼女が髪を振り乱すと、まるで香を焚いたかのように匂い立つ。その香りをかいでいると、とても心が安らぎ、気が付くと彼女への想いを止めることができなくなってしまうのだ。美嘉の意のままに動かすことができるらしい髪の毛と香りは、彼女と結ばれて以来毎日崇を翻弄する。今も全身を包み込むように毛を巻かれただけで、肌に触れる毛の気持ちよさに体が弛緩して情けない喘ぎ声が口から漏れ出してしまう。そして股間にどくどくと海綿体に血液がたまっていき、男根が硬くいきり立ってしまった。すると美嘉はその様子を余裕たっぷりに見下ろしながら尋ねてくる。

「情けない声
#9825;そんなに気持ちがいいんですかぁ…私の髪は
#9825;?」
「気持ちがいい…本当に…美嘉の髪の毛、たまらないよ…!!」
「うふふ〜
#9825;」
崇から欲しい返事を引き出した美嘉が満面の笑みを浮かべた。
濃くなっていく嗜虐的な笑みと呼応するように、彼女は頭髪の動きを活発にさせる。彼女の髪が横たわっている崇の首、腕、腹、足と体躯の要所をゆっくりと絡み取っていった。ざわざわと波打つように動くことによって光を反射する髪の毛は、鴉の濡れ羽色というのだろうか、ただ黒いだけではなく青みのあるつややかな色を発している。その様は実に、美しい。何度となくその美に目を奪われ、見惚れているというのに美嘉の髪を見飽きるということはない。それが不思議で、崇は妻に質問する。
「なぜ…」
「なんですか、旦那様?」
「なぜ美嘉の髪はそんなに…美しいんだい?」
疑問を聞いた美嘉は、先ほどまでの笑みとは違う、うら若い女性がそうするように口に手をあててくすくすと笑いながら答えた。

「私の髪が美しいのは…ひとえに旦那様のおかげです。」
「え?」
「髪の毛というのは、とっても繊細なもの。」
美嘉は自身の髪の毛を一房つかみ、話を続ける。
「私の感情やストレスがすぐに現れてしまいますし…生えている間の記憶をずっと蓄えているのです。つまり、私の髪の毛が美しさを保っているということは…私が幸せだということ。この髪の毛はちゃんと覚えているんですよ、旦那様にたっぷりと愛してもらっていることを、他にかわりのない大切な精液を与えてもらったことを、そして私がどれほど深く旦那様を愛しているのかを、ね…
#9825;」
「……じゃあ」
「はい。私の髪の毛の美しさは…旦那様がいなければありえないのです。もし三日も旦那様のお傍にいられなかったら、私の髪の毛は目も当てられないほどボロボロになってしまうでしょう。旦那様が私のことをたっぷりと愛してくだされば、この美しさはずっと向上し続けるのです
#9825;」
そう言って美嘉はゆっくりと自分の髪を手櫛で丁寧に梳いていく。
その様はまるで中世の絵画に描かれているような美しいポーズだった。口が開いているのも気にせず、妻をじっと凝望してしまう。するとその視線を受け止めた美嘉は、不敵な笑みを浮かべ
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