おまけ

畦森涼子は、自室に佳也子を迎えていた。
机を挟んで対峙する二人の間にはお茶と様々なお菓子が置かれており、それらを口にしながらとめどなく話をしている。普段、佳也子が下山することはほとんどない。今日は、数日前に緑川徹と結ばれた彼女から話を聞くために来てもらったのだ。
「なるほど、佳也子ちゃんが情熱的に徹君に迫ったのね〜。うふふ。」
「…………はい。」
自身の初夜の様子を口にした佳也子は、顔を真っ赤にさせて俯いた。
いくら性に奔放な魔物娘であっても、その程度には当然個人差がある。挨拶をするように卑猥な話題を口にする者もいれば、佳也子のように慎みを忘れずにいるものもいる。しかしどうやら彼女の話を聞く限り、佳也子も徹の前では魔物娘らしく淫靡に乱れることができたらしい。きっとこれからも徹の前ではとろけきった表情でいくつもの愛あるセックスをすることになるだろう。ようやく結ばれた二人の微笑ましい初夜の様子を聞き、これから二人が幸せを共有するだろう未来を夢想し、涼子は隠すことなく安堵の笑みを浮かべた。

それからしばらくおすすめの体位やプレイ、相手を気持ちよくさせるコツなど話していたが、ふっと会話に間があいてしまった。涼子から話題を切り出そうとも考えたが、佳也子が何か思案するように表情を硬くさせていることに気が付き。彼女が口を開くのをゆっくりと待つことにした。

「あの、涼子さん…」
すると佳也子はしばらくした後に視線をあげ、涼子の顔を見ながら何かを決心するように口を開いた。
「ん、何かしら?」
「実は…今月の末に、彼と母に会いに行こうと思っているんです。」
「まあ!!」
思わず感嘆にも似た声を漏らしてしまう。
それまで自身の母親の話をするとき、佳也子の目は本当に弱弱しくうろたえていた。けれど徹という伴侶を得た今の佳也子は、少しも揺るぐことのない強い光をその目に宿し、こちらをまっすぐに見ている。そこには誰にも愛されないとおびえていた過去の姿はなく、伴侶を得た者の幸せがにじみ出ていた。
「それは素敵なことだわ。佳也子ちゃんが会いに来てくれただけじゃなくて、伴侶まで見つけてきたのだもの。きっと喜んでくださるわよ!!」
「はい。……あの時、喧嘩して家を飛び出してしまったことを謝って、今幸せに暮らしていることを報告してこようと思います。」
そう言ってほほ笑む佳也子の顔は、お世辞抜きにとても可愛らしい恋する乙女のものだった。

「…………。」
涼子はその笑顔を見てとても複雑な感情に囚われた。
娘のように思うほど仲がいい佳也子の幸せを祝福することに一切の抵抗はない。しかし、今まで佳也子に知らせずにきたある事実が涼子の心に影を作っていた。このことを佳也子に知らせるか否か、非常に悩ましい。
「……涼子さん?」
すると敏感に涼子の迷いを悟った佳也子が、いぶかしげに声をかけてきた。
その目には涼子のことを疑う余地は毛ほどもなく、純真に輝いている。むしろこちらを気遣う心配の色まで浮き出ていた。その瞬きを見ていると、なんだが隠しごとをしている自分がとてつもなく悪者のように思えてきてしょうがなかった。だから躊躇いはしたが、彼女に打ち明けることを決めた。
「あの、ね。佳也子ちゃん。」
「……はい。」
「実は今まで佳也子ちゃんに隠してきたことがあって、ね。それを聞いてほしくって。」
涼子の言葉が予測できないのか佳也子は少し眉を曲げ、首を傾げた。

「私はあなたのお母さんを昔からよく知っているの。」
「!!」
佳也子の目が驚きによって見開かれた。
「私と私の夫がまだ若いころ、佳也子ちゃんのお母さんにとてもお世話になったことがあって。それ以来直接会うことは少なかったのだけれど時候の挨拶とか書簡でのやり取りはずっと続いていて、懇意にさせてもらっているわ。だからあなたをこの土地であずかることを決めた時すぐにお母さんにその旨を連絡したし、それ以来頻繁に連絡を取り合っていたの。徹君と結ばれたことはもちろんまだ伝えてはいないけど、あなたがここで元気に鍛冶の仕事をしていることはご存知よ。佳也子ちゃんを騙す…つもりは全くなかったけど、隠しておいた方がいいだろうと思ってずっと隠していたの。ごめんなさいね。」
全く予想しなかった言わんばかりに、佳也子は口を数度ぱくぱくと動かした後、か細い声で質問してきた。

「じゃあ………涼子さんは、私が母の娘だから…あの時、一人でいた私に……声をかけてくれたんですか?」
「それは違うわ。」
駅の片隅に一人寂しそうにたっている佳也子の姿が浮かぶ。
「あの時私があなたに声をかけたのは本当に偶然。本当にあなたのことが心配で声をかけたの。私で力になれることがあれば、何かしてあげたいって思ったわ。だってそうでしょ?あなたは名札をつけていたわけでも身分証明書をちらつかせて
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33