薄暗い部屋が一瞬だけ明るくなる。
煙草に着火した独特の香りが鼻孔を掠め、オイルライターの軽妙な金属音が室内に響く。彼女が咥えた煙草に火をつけたのだ。深呼吸するようにたっぷりと息を吸い込み、紫煙を吐き出しながら目の前に立つ魔物娘、栗原麗は不敵に微笑む。
「さて、と」
教室から引き摺られるようにして連れ出された清志は今、体育などで使用する用具を収納している倉庫にいる。夏だと言うのに倉庫内は温度が低く、乾燥していて埃っぽい。校舎から離れ、人通りもほとんどないこの場所は確かに尋問する場所としては最適だろう。彼女がわざわざ場所を移した理由がいやでもよくわかる。
「改めてお前さんが一体、私の大事な下着に何をしてくれたのか…話してもらおうか。」
「………。」
「おやあ〜?だんまりかい。いい度胸だ。くくく、ふぅ〜……」
「ぅっ…」
あまりの事に口を開く事が出来ない清志に紫煙が吐きかけられる。
両親は喫煙の習慣がなく、親類にも煙草を吸う人間がいない環境で育ったせいもあり、煙草を、しかも未成年の同級生が吸っているというだけで清志は情けなく委縮してしまった。麗は震える自分を奇妙なまなざしで舐めまわすように見つめ、くつくつと喉の奥で籠らせたような笑い声を上げたかと思うと、ポケットから下着を取り出して見せつけるように揺らめかせる。そしてさっと顔から笑みを消し、眉間に深い皺をよせて凄んだ。
「なあ、日野よぉ。お前さん、いくら転校生だからって言っても…アタシの噂くらいは周りの連中から聞いているんだろ?」
黙って頷くと、麗はいくらか機嫌を直したように続ける。
「だったらよぉ〜アタシの機嫌が悪くなる前に…素直に下着で何をしていたのか白状した方がいいってもんじゃないのかい?あんただって中退なんかしたくないだろ?こんなところで躓いて、大学にすらいけませんでしたなんてなったら…お前の両親、特に親父さんは悲しむだろうからなあ…」
その一言で本当に血の気が引いていった。
彼女の言う通り、栗原麗の噂は転校して一週間しか経たない清志の耳にもイヤというほど届いてきた。母親は警察にもコネがある政治家でありこの学校の理事にも名を連ねていて、それをいいことに彼女は好き放題していると言うのだ。恵まれた体格に加え人虎に鍛えられた腕力で他人に暴力をふるう、弱い者から平気でカツアゲをする、煙草のみならず法に触れる薬にまで手を出している、夜バイクに乗り暴走行為をしている姿を見ただのその噂の数とバラエティは想像以上だった。
「(ま、まさか…本当に…退学させることが?)」
そんな実しやかに噂される中で一番多く語られる話が、彼女が気にくわない生徒を親の権力を使って退学させているというものだった。彼女が入学して以来、彼女の怒りにふれた何人もの生徒が、突然理由を告げることなくこの学校を去っているらしい。そんな話を聞かせてくれた同級生に、清志はその時何の冗談なんだと笑い飛ばした。しかし、現に目の前にいる噂の張本人は真顔でこちらを真っ直ぐ見据え、その噂通りの内容を話している。その瞬間、嫌な汗と共に凄惨な自分の未来が脳裏に浮かぶ。ここまで育ててくれた両親が自分の退学を知ったらなんというだろう、父親の様になりたいと願って今まで頑張ってきた道も確実に閉ざされてしまうにちがいない、まさにどう考えてもお先真っ暗という状況しか見えてこなかった。麗は言葉を失い顔面蒼白になった清志を、どこか艶めかしい視線で射止めながら優しい声色で唆す。
「なあ、日野。状況を理解したか?私を怒らせたってなんのいいこともない。なら素直に白状した方がいい。そうだろ?」
「…うん。」
肯定の言葉をなんとか呟く。
「じゃあ日野…さっきお前は何をしてたんだ?言ってみろ。」
「……匂いを、嗅いでいました。」
「ほ〜う、どうやって?」
ただ答えるだけではダメだと言わんばかりに、麗は清志に詰め寄ってくる。
「栗原さんの…下着に、顔を…」
「顔を〜?」
「か、顔を埋めて匂いを嗅いでいました。」
恥ずかしさのあまり清志は真っ赤になった顔を下に向けてしまった。だが、麗の追及は終わらない。
「どうだった。」
「え?」
「アタシのパンツに顔を埋めて、あんなに鼻息荒く匂いを嗅いでたんだ。どうだったか感想を言えよ。」
「…その、甘い匂いがして…その匂いを吸い込む度にどんどん体が熱くなって、何度もこんなこと止めなきゃいけないと思ったけど、体が言うこと言うことをきかなくて、やめられなかったんだ。もっと嗅ぎたいって気持ちが抑えられなくて……」
最後は情けないほど声が尻すぼみになってしまう。
「ふ〜ん、そうかい。しかし、日野よぉ。」
言質を取ったと言わんばかりにしたり顔を浮かべながら、麗はゆっくりと顔を近づけて耳元で囁く。
「お前がそうやって人のパンツで楽しんだ
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