街中にある隠れ家のような雰囲気の喫茶店。
マスターが淹れる自慢の紅茶や珈琲、彼の妻である妖孤が作るお菓子が大変に評判で常連客が多いことでも知られるこの店。
「だから、バックがいいにきまってるだろ?」
「いいえ、見つめあってする正常位こそが正義です。」
「どんな体位でしようが、旦那にしてもらえればどうでもいいじゃろうに。…まあワシは甘い言葉を囁かれながら後座位で抱っこされるのがいいかのう
#9825;」
そんな店内では、まだ正午とは思えない赤裸々な言葉が飛び交っている。
声が聞こえてくるのは店の奥の方、十人以上の魔物娘が飲み物やお菓子を堪能しながら話に花を咲かせているあたりから。雪女、稲荷、ラミアなど種族は様々だが、彼女達の左手にはみな指輪が輝いている。どうやら午後のひと時、旦那様の話題で盛り上がっているマダム達のようだ。
「うちは…やっぱり自分が主導権を握るような体位ってのがいいなあ。あなたはどう?」
しみじみと自分の好みを語ったダークエルフが話題を隣にいる魔物娘にふる。
ふんわりと軽いウェーブがかかるクリーム色をした髪の毛
女性的で見るものに強く母性を感じさせる柔和な顔立ち
穏やかで優しさに溢れる目尻が少し下がった眼
人間には決してない額の角と獣の耳。
ほっそりとした肩口や腰とは対照的に、たわわに膨らむ胸部
華奢な人間の上半身からのびる逞しい馬の下半身
ダークエルフが話しかけた相手はある意味、魔物娘の中でも異彩を放つユニコーン。
それまで話をしていた周りの奥様たちも、性に奔放な魔物娘の中において『純潔の象徴』と称されるユニコーンがどのように答えるのかを楽しげに待ち構えている。
「ほえ?」
ところがユニコーンは目の前にあるチョコレートケーキに夢中になっていたようで、豆鉄砲を食らった鳩の様にポカンとしていた。どのような話の流れで自分に話題が回ってきたのか分からないらしく、助けを求めるようにきょろきょろと回りに視線を巡らせる。
「最近どんな風に旦那様と愛し合うのがいいかって話ですよ、奥さん。ですから奥さんも最近のお気に入りを教えてくださいな。」
ユニコーンの様子を可笑しそうに眺めながら、向かいに座るカラステングが助け船を出す。
「最近の…お気に入りですかぁ」
するとユニコーンは口に運ぼうとしたケーキを皿に戻し、何かを考えるように視線を上げる。
「あ、そうですね。最近よくやる体位がありますよ。」
「お、なんだい。早くゲロッちまいな〜。」
他のメンツとは違い、一人日本酒を飲んでいる赤鬼が楽しそうに茶々を入れる。
「私ですね、最近よく恵一さんと騎乗位でするんです。旦那様に覆いかぶさって腰を振ると堪らなく気持ちがいいですよね♪」
「え?騎乗位…?」
「……!?」
「旦那を背にのせて…赤ちゃんプレイでも、するのかね?」
しんとその場が静まり返り、やがて小波のようにざわめきが広がる。
「ふふ、ケーキ…美味しい♪」
ところが困惑する他のマダム達をよそに、ユニコーンは丁寧に切り取ったケーキを一切れ口に放り込み満面の笑みを浮かべたのだった。
…………………………
……………………
………………
木村由美江は家への帰路を急いでいた。
今日は月に一度、当番制で行う町内の婦人会の集まりに参加していた。資源回収の手順、町の主だった公共施設の掃除や手入れなど話し合わなければならない話題はすぐに片付いたのだが、その後立ち寄った喫茶店で数時間話しこんでしまい帰りが遅くなってしまった。日がだいぶ長くなったとはいえ、それでも夏の盛りに比べれば日が暮れるのは早い。既に辺りは薄暗くなり始め、日が落ちる辺りにそびえる山脈は独特の夕焼け色に染まっている。
「でも、なんであんなに話し続けることができるのかしらねえ。」
自身の軽快な蹄の音を聞きながら、可笑しくてくすりと笑ってしまう。
身も蓋もないことをいってしまえば、婦人会の集まりは話し合う内容よりもその後行われる井戸端会議がもっぱらの目的となりつつある。それぞれの地区から代表として集まった奥様方で話す内容は実に他愛もない話ばかり。時には子育てについてなど真面目な話もあるにはあるのだが、大抵が旦那との惚気話や普段している痴態の自慢など。やれうちの旦那様はかっこいい、やれうちの旦那様は優しい、昨日の晩は激しかった、昨日旦那様にたっぷり注がれてお腹がちゃぽちゃぽだとかいつも似たような話ばかりしている。
だが、不思議と毎回時間を忘れて話し込んでしまう。
同じような話を繰り返しているというのに、気がつけば時計の針が信じられない位進んでいるのだ。そんな時、いつも由美江は学生時代、特に高校生であった頃のことを思い出してしまう。あのころは毎日あのように女同士で集まっては姦しく話しに花を咲かせたものだ
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