嘘と本音は紙一重

俺の名前は秋枝和彦。
年齢は25歳。
公務員の父、専業主婦の母の元で育ったごく平凡なジパングに住む会社員だ。
良いのか悪いのか分からないが意識や記憶は実にはっきりしているらしい。

「ここは一体…俺は、おかしくなったのか…?」
そんなまともな状態の俺が現在直面しているのは、一度も経験した事がないほど奇妙な事態だ。
朝、会社に出勤するためいつものように駅へと続く川沿いの道で欠伸を噛み締めながら歩いていた俺は、視界の端に白い何かが動くのを目にした。それは不思議なほど心に残り、気がつくとそれが通り過ぎたと思われる小路に足を踏み入れていた。生まれ育った小さな町なので一度も通っていない道などないはずなのだが、朝なのに鬱蒼とした暗さを湛えたその小路は記憶になかった。そしてその道をしばらく歩き、突然光に包まれたかと思った瞬間、俺はこの奇妙な世界に立ちつくしていた。

ドールハウスの様な可愛らしい家々、トランプ、積み木、西洋人形、ブリキの兵隊、服を着た動物の人形達。
まるで女の子のおもちゃ箱につまっているようなものたちがこのおかしな世界を構成している。しかもそれらはまるで意思を持っているかのように動いていたり、重力などないかのように今まで直に見た事の無い様な動きをしている。突然目の前に広がった光景を前に自身の正気を疑っても仕方がないというものだ。

「そして…これは何だ?」
しかもただでさえ意味のわからない状況なのに、さらに追い打ちをかける事態が先程起こったばかりだ。
突然足元から鳥籠の様な鉄骨の柱がにょきにょきとはえ、あっという間に硝子や透明な屋根のようなものがはめ込まれてき、広さ十畳程度の、まるでジパングの総合電波塔にある展望台の様な空間に、俺は閉じ込められたのだ。時間をかけて一枚一枚ガラスに触れてみたが、開くどころかびくともしなかった。どうやら俺に打つ手はないらしい。

「全く…俺はどうなっちまうんだよ…」
そんな何一つ分からない世界へ突然迷い込んで、剰え閉じ込められてしまった俺が頭を抱え大声で嘆いたその時だった。
「その疑問に…答えてあげよっか、オニイサン?」
「っぅお!?」
突然右耳にふぅっと息が吹きかけられ、誰もいないと思っていた空間に女の甘ったるい猫なで声が響いた。
「だ、誰だ!?」
その声に驚きと自分でもよくわからないざわめきを心に覚えつつ、急いで振り向くがそこには誰もいない。
「こっちよ、こっち…オニイサン
#9825;」
狼狽する俺を翻弄するように反対の耳元で囁かれる声を聞き、全身に鳥肌を浮かべつつ慌てて振り抜くがやはりそこには誰もいない。硝子越しに見えるのは先程までのカオスな風景だけだ。
「い、いよいよ…幻聴を聞くほどおかしくなったのか、俺…!?」
「ううん。オニイサンは…至って正常だよ〜
#9825;」
むにゅ、もみもみ…
「!?」
本格的に自身の正気を疑おうとしていた俺の背後から声が聞こえ、唐突に股間を鷲掴みにされた。その厚みがあり独特の柔らかさを伴う手は的確にペニスを探り当て、形を確認するように揉み始める。

「あらぁ…オニイサンのまだ小さいのに、立派〜。この新品の業物はこれから私だけのモノ♪」
まるで油の切れた機械の様にぎこちない動きで後ろを振り向くと、人の性器を好き放題に弄くりまわしご満悦な魔物娘が…いた。
「ここはどこで、お前は誰なんだ!!答えろ!!!」
「あん、強引なのはセックスの時だけにしてよぅオニイサン。」
逃げられないように背後に手を回して相手の肩を掴みつつ、無理矢理体を回転させ魔物娘と向き合う。
頭からはえる大きな二つの猫耳、機嫌がいい事を現すかのようにゆったりと揺れる尻尾はどれも作り物などではなく、彼女が魔物娘である事を強烈に俺に教えてくれる。そんな彼女は手足に生えた温かそうな体毛や、腰までのびている美しい髪の毛と同じ紫色を基調としたバニーガールの様な服を身につけていている。整った美しい顔にはその妖艶な服装とは対照的な、幼さすら感じさせるような人懐っこい笑顔が浮かび、とても魅力的だった。
「いいから答えろ。ここはなんなんだ!?」
その笑顔に引き込まれそうになるが、理性をふり絞り質問する。
「そっか。やっぱり突然ここにやってきて何の説明もないままじゃあ…不安だよね。」
するとうんうんと何かに納得した彼女はその場ですっと姿勢を正し、口を開いた。
「ここは魔王様の御子女であるハートの女王様が作られた異空間、不思議の国。オニイサンがいた世界にはないカオスと理不尽を楽しむ楽園なのです。私はこの不思議の国へきたオニイサンの様な来訪者たちを案内するチェシャ猫。」
ようこそ、オニイサン。私たちの国へ―――そう言ってチェシャ猫は妖しく微笑んだ。





「はぁ!?」
そんな簡潔で分かりやすい説明を無理矢理頭に理解
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