「皆様、今日はワタクシたちのためにお集まりくださりありがとうございます。夫と共に感謝いたしますわ。どうか皆様も最後までパーティーを楽しんでいってくださいませ。」
主催者による挨拶が終ると、盛大だが品を思わせる拍手がわき上がる。そしてその拍手にこたえるように主催者のワイトが上品に手を振る。側にいる夫に腕を絡ませ微笑む彼女は非常に幸せそうだ。
「はあ…」
舞台上で行われている一連の流れを遠巻きに見ながら、畦森竜治は一つため息をつく。
竜治が参加しているパーティーはワイトの婚約を祝うために開かれたもの。そしてそのワイトの一族がジパングでも指折りの名家であるため、会場や振舞われる料理、サービスの質のどれもが一流で、参加している者達の顔触れも豪華だ。普段彼女たちワイトを中心とするアンデット族の魔物娘たちだけで開かれている社交パーティーと違い、今日のパーティーは異種の魔物娘たちや有名な政治家、資産家から実業家、画家や小説家に歌手とテレビや新聞でよく見る顔が多く確認できる。なるほど上流階級やブルジョワと呼ばれる者達はこうやって人脈を築いているのだなと、このようなパーティーに参加する度に竜治は納得するばかりだ。
「(やはり根っからの庶民なんだな。)」
しかし、竜治はそんな華々しいパーティーに何度参加してもどうしても馴れないのだ。
竜治は有名人でも一流の経営者でもましてや政治家でもない。片田舎で代々林業や農家を営む一家の次男として生を受けた生まれも育ちも完全に庶民だ。はっきりいって場違いである。ではなぜ竜治がこの場にいるのかと言うと…
「それでは続きまして畦森綾様よりお祝いのお言葉を頂戴いたします。よろしくお願いいたします!!」
これまた有名なフリーアナウンサーの司会による紹介で、舞台上の隅に座っていた一人の女性が立ちあがる。
美しい金髪に紅の目、主催者であるワイトにも勝るとも劣らない病的なまでに美しい白い肌。そして柔らかく微笑む口から垣間見える鋭利な牙。漆黒と炎を纏うかのような濃い黒と赤のドレス。そして堂々とした立ち振舞いから醸し出される気品は、彼女が魔物娘の中でも「貴族」と称されるヴァンパイアであることを人々に強く印象付ける。
「紹介いただきました、畦森綾です。本来であれば畦森家当主の我が母である涼子が参加すべきところですが、どうしても母の都合がつかず代理として私が参りました無礼をどうかお許しください。………」
見る者を釘づけにする様な美しい所作で挨拶をする彼女こそが、竜治がこの場にいる原因となった人物である妻の綾だ。
綾との関係は幼馴染というベタなものから始まった。
二人が同い年であること、家が隣同士(ただ、畦森家はかなり広大な敷地を有しているのではっきりとお隣さんと言う感覚があるわけではないが、一応お隣さんではある)であること、そして竜治の実家が作る野菜を畦森家が多く買い取ってくれていた関係で、幼いころから接する機会が多かったのだ。だからなのかは分からないが、畦森家という名前や、ヴァンパイアという種族に特別な偏見や意識をすることはなかった。綾と顔を合わせれば他の友人たちと同じように話したり、遊んだものだった。
そんな関係が大きく変化したのは竜治が15歳をむかえた年の春の事。彼女に突然、衝撃の告白をされたのだった。
「竜治くん、私の家に来てもらえる?」
「ん?何か用事でもあるの?」
「実は、私の召使いとして住み込みで仕えてほしいの。」
「はい?召使い?」
「竜治くんのお父様とお母様からは既に許可を貰っています。はい、これ御両親がかかれたお手紙です。」
「え?なになに…『熨斗をつけて綾さんに息子をさしあげます。煮るなり焼くなり綾さんの好きにしてくださいませ。あ、でもちゃんとご飯は食べさせてあげてくださいねby両親』って何だこれ!?」
「というわけで今日から竜治くんの身柄は私のモノになりました。ですので、今この瞬間から私の召使いとして、身の回りの世話をよろしくお願いしま…お願いするわね、竜治。」
「……。」
「そうそう、竜治の荷物や日常品は既に移しておいた。勿論、引き出しの奥のエッチな写真も、な
#9825;」
「ちょっと!?」
「さあ、では呆けていないで早速私たちの家に行こうじゃないか。」
「ええ!?」
という実に簡潔なやりとりの後、竜治は畦森家の一角に新しく作られた一戸建ての日本家屋に綾と二人で住むことになったのだった。
正直に言うと、その当時の自分は綾との関係がこのようになるとは予想もしていなかった。
何も知らない幼いころとは違ってそれなりに畦森家の影響力や存在の大きさを理解し始めていたし、何より美しく可憐に成長した綾は高嶺の花として手の届かない存在だと意識していたから気軽に話しかけることもできなくなっていた。絵に書いた様
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