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気がつくと無意識に尻尾を振っていることがある。

嬉しい時は喜びを周りに拡散するように、気分よく鼻歌を歌う時はまるで指揮をするように、悲しい事があれば力なく垂れながら、怒っている時は毛を逆立てながら…その理由は様々だが、私の尻尾は自分の素直な気持ちを吐露する。それは時に自分でも気がつかない感情であったりするほどだ。でも私の尻尾は巻き尾なので猫又のようなシャープな動きでもないし、稲荷のように妖艶な動きをするわけでも、サキュバス達のように器用に動くわけでもない。もぞもぞと動く様は私の小さなコンプレックスでもあった。傍から見ればまるで丸虫だ。

そんな私、柴守君代の尻尾は現在…千切れんばかりにブンブンと振られている。何とか自分が喜んでいる事を相手に悟られまいとするが、まるで別の生き物のように動く尻尾を制止することは不可能だった。

「君代姉さん、俺の家庭教師をしてくれないかな?」
私の感情をここまでかき乱す原因は―――目の前にいる幼馴染である男の言動。
「受験まであと一年。俺頑張るからさ。お願いだ!!」

私には幼馴染がいる。近所に住む一つ年下の男の子、名を及川恭介という。
家が近所で親同士がとても仲が良いこともあって、実の姉弟のように育った。恭介は兄弟がいなかったこともあり、「お姉ちゃん、お姉ちゃん。」と事あるごとに私に甘えてくれたものだった。背が低く泣き虫で、人見知りだった恭介はいつも私の後ろか彼の母親の後ろにひっついていた。そんな彼がとっても愛おしく、守ってやらなければと強く思ったのを今でもよく覚えている。そのころは無意識に彼の面倒を見ていたが、それは私たちアヌビスの男を管理するという本能を満たしていたのかもしれない。

そんな彼の事を異性として好きだと自覚したのは何時の事だったか分からない。
魔物娘の友人たちが異性を気にし出したころだろうか、サキュバスの友人にボーイフレンドが出来たころだろうか、それとも私の胸が膨らみだし自分が女…魔物娘であることを自覚したころだろうか。ただ、確実に家族としてではなく一人の男として恭介を意識していたのは間違いなかった。

それでも私は元来何事にも慎重に行動する性格が災い、回りの友人たちのように彼に好意を伝えると言う事が出来ずにいた。自分の心情を吐露することによってこの関係を壊すのがとても怖かったのだ。それに実の父にさえ裸を見られたくないと思うほど魔物娘にしては珍しいほどやっかいな貞操観念を持ち合わせているので、友人たちが実践したお色気作戦はもってのほかだった。彼に拒絶されるくらいなら「お姉ちゃん」といってくれる現状がずっとましに思えた。そして私が想いを口にしなければこの関係が続くと思っていた。

しかし、そんな関係は私が中学校を卒業したあたりから変化していった。
そのころから彼は成長期に入り、ぐんぐんと背丈は伸びていった。幼い彼は見上げていたはずの私の背はあっという間に追いぬかれた。最初はその急激な身長ののびに追い付かず、ひょろひょろだった体にはしなやかな筋肉がつき、あっという間に『男の体』になっていった。

「君代姉さん。」

声変わりで低くなった男の声で恭介はそのころから私のことを「お姉ちゃん」と呼ばなくなり、言葉づかいもどこか堅くなった。「お姉ちゃん」と呼ばれなくなったのは淋しかったが、呼び名が変わっただけとどこかぼんやりと彼の変化を受け止めていた。。

だが、だんだんと彼は私を避けるようになっていった。
彼と私は同じ中高一貫校に通っていたので、中学を卒業して高校に入学してもそれまでと同様に一緒に登校したいと私は考えていた。しかし、「部活の朝練がある。」だとか「当番の仕事があるから早く行かなければいけない。」など様々な理由で一緒に登校することを拒否されてしまい、それから恭介は私に近寄ろうとしなくなった。あれほど私にべったりで、その日あった事を嬉々として話してくれた彼とは気がつけば会った時に挨拶を交わすだけの関係になった。

何故避けられているのかも聞く勇気も無く、突然一方的に離れていった恭介にした手に出るのもなんだか腑に落ちなかった私は失意のままに高校生活を過ごした。失恋とまではいかないが、それまで密かにだがずっと想っている相手と話すら出来ない生活はまさに灰色そのもの。特に高校生になってから爆発的に増えた友人たちの交際・婚約宣言を聞くたびに、自分のみじめな現状を思い知らされた。祝福の言葉を喉の奥からなんとか絞り出したが、みじめな自分の心情を吐露してしまわないようにするのに必死だった。

そんな私は,現実から逃避するかのように一心不乱に、より一層自分の中で膨らむ彼への想いをなんとか腹の底に抑え込んで勉強に打ち込んだ。友人たちが甘い甘いデートやセックスにうつつを抜かす中、真面目に印刷された文
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