魔王様の帽子

古びた教会の中に人々が詰めかけていた。
この場に集まった人々の殆どが期待や欲望の籠った視線をある一点に向けている。
「あれが、魔王様が愛用された帽子…」
そんな声が何処からともなく聞こえてきた。
堕落神が描き出された美しいステンドグラスによって明るく照らされる祭壇には一つの古臭い帽子が置かれている。
それは現在この世界を治める魔王でありサキュバスの、全ての魔物娘の頂点に立つ御方が長年愛用したものなのだという。そしてその古臭いとんがり帽子はジパングでいうところの『付喪神』のような存在に変化したらしく、ある特殊能力を備える神器として人々の信仰の対象となっている。

今日はその帽子がこの教会に貸し出されると言う事で、ある願望を抱えた人間たちがこの場所に押し寄せたのだった。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。これほど多くの方が我らの同胞となっていただけることを心より嬉しく思います。これより魔王様の帽子、通称『魔分け帽子』による魔物化の儀式を開始いたします。」
祭壇に一人のダークプリーストがあがり、丁寧な挨拶をする。
そして慈悲の籠った目で集まった人間達を眺めた後、帽子へ近寄り口を開いた。
「ではみなさまには不要と思いますが、改めてこの帽子の説明を不肖ながら、この教会をまかされています私からさせていただきます。みなさんの目の前にあるこの帽子は魔王様が長年愛用された品物の一つで、何世紀もの間魔王様の魔力に直接触れてきたことである能力と自我を獲得しました。御子女であるリリム様や側近のバフォメット様が魔術によるプログラミングを施したことでも知られています。その帽子が持つ能力とは皆さんに眠る欲望や特性、資質を見抜き一番適していると思われる魔物娘へと姿を変えてしまうというものです。」

「それでは、儀式を行う前に恒例となっている帽子からの自己紹介を皆さんに聞いていただこうと思います。」
観客に一礼した後、ダークプリーストがそっと帽子に手をおいた。

すると、それまで静かにしていた帽子が突然歌いだした。


私は綺麗じゃないけれど
人はみかけによらぬもの
私をしのぐ堕落の帽子があるならば
私は身を引こう

私は魔王様の帽子
私は人々の上をいく
君の頭に隠れたものを
魔分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう


君が成るべき魔物娘の名を


デュラハンになるならば
勇気ある者がなる姿
勇猛果敢な騎士道で
他とは違う愛を語らおう


アヌビスになるならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない


古き賢きスフィンクス
君に意欲があるならば
機知と愛を持った伴侶を
ここで必ず得るだろう


刑部狸はもしかして
君は真の伴侶を得る
どんな手段を使っても
目的を遂げる狡猾さ



それからしばらく魔物娘を歌った内容が続いたが、側にいるダークプリーストが放っておくと全ての魔物娘を歌いそうな勢いの帽子にそっと手を置きなにやら囁くと、しぶしぶ歌の締めくくりを歌いだした。



かぶってごらん!恐れずに!
興奮せずに、お任せを
君を私の手にゆだね

だって私は考える帽子!



歌が終わると、集まった人々から拍手が巻き起こった。
そしてそのざわめきの中、整理番号を持った女性が一人祭壇に進み出る。
「さあ、帽子をかぶって新しい世界へ参りましょう。」
「はい。お願いします!!」
祭壇へと導く係りのサキュバスがそう言うと、幼さが僅かに残る彼女は嬉しそうに頷き帽子をその頭にのせた。すると一瞬の沈黙の後、帽子が叫び声を上げる。
「…ラミア!!」
「!!」
帽子の宣言を受けると同時に、彼女の体から眩い光が放たれる。
眩くややピンク色の様な光は徐々に人間の形から変化していき、彼女が人間ではないものへと変貌している事をいやでも思い知らせるものだった。その場にいたすべての者が、その光景から目をそらすこともせず固唾を飲んで見守った。

「あぁ…
#9825;なにこれ、すごい
#9825;」
金髪だった髪の毛は赤く、青い瞳は金色に、胸ははちきれんばかりに膨れ、そして下半身から足は消え去り太く長い蛇の下半身がはえ―――発光を終え、悩ましい声で身悶える彼女はまさに人外の存在へと変化していた。

その変化を目の当たりにした人々から感嘆や熱狂の声が上がる。
「おめでとうございます。これであなたも私たち魔物娘の仲間入りです。さあ、愛しい旦那様を探し出し、誰にも負けない愛をその身に受けましょう!!」
ダークプリーストが優しく微笑みながらラミアに声をかける。
「はい、私…頑張ります
#9825;!!」

「応援いたします。それでは…次の方どうぞ
#9825;」

こうしてその教会には種族名を告げる声と歓喜の声が鳴り響い
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