ねんねんころりよねんころり
しとしと落つる天からの下生え濡らす甘露かな・・・
みどりの蒼き我が庭に濃き彩りのさざれ石・・・
ねんねんころりよねんころり
鬱蒼と茂る植物が生き生きと葉を広げ、晩からの雨を一身に受けている。
私の家の猫の額ほどの庭も、今は生き物達の命を生み出し育て循環しているのか。
屋根が付いてはいるものの、濡縁がその名の通り端を滴で濡らしている、長く降る雨は粒が小さいものでほんの少しの風にも舞う塵芥のようだ。
私は側臥の体制で、雨戸を開け放った部屋から梅雨時期の庭を見遣る。
ねんねんころりよねんころり
先ほどから私の頭を支えてくれる柔らかなものが歌うのは、どうも同じ節の単調なもので、その単調さに意図したものか眠りに誘われそうになる。
その柔らかなものは、温かい。
その柔らかなものは、良い匂いがする。
その柔らかなものは、鱗がある。
一応、線引きの中では室内とは言え、外界と仕切るモノを全て開け放っている家は、きっと梅雨寒と言って良い室温なのだろうけど、私を包む長い長い尾っぽが優しく私を温めてくれるから、私は趣味である四季の庭を眺める事が出来るのだ。
寒い時は温かいこの尾っぽも、熱い時期は寧ろ冷やしてくれる優れものであった。
そして、この家には不思議が在る。
東西南北に面した部屋の庭に四季があって、正確に言うと方位によって四季の一つが移り変わる庭。
今見ている梅雨も、明日明後日には遠雷と共に雨も上がり、強い日差しと湿気を含んだ空気が屋敷内に入ってくるだろう・・・一昨日は五月晴れであったのに。
東は春、西は秋、北は冬。
南の庭は、夏を表す。
「おまえさま、寒くはないですか?」
ああ、お前の温もりが調度良い。
もう一つ、不思議と言えば、この家には庭の代わりに玄関がない。
入口も出口もない。
否、正確にはあるのだが、人間である私にはないに等しい。
「おまえさま、外に行きたいのですか?」
私の思考を見透かしたかのように、柔らかなものが問う。
「おまえさまの好きなもの全て、ここから見えるように在るんです」
ああ、そう拗ねないでくれ。
私は此処へ来てから一度だって外へ出たいと思った事はないよ。
「おまえさま、おまえさま・・・信じて良いのですね?信じて・・・」
ああ、ああ、信じるが良い、湖の主である龍を娶ったこの私が、お前を置いて此処を出ようなんて思いもしないさ。
「おまえさま・・・」
例え、人柱として白羽の矢を受け出逢ったとしても、家族を残してこの幽界に参ったとしても、お前に惚れた心は変わらない。
「嬉や・・・」
こんな問答も何度目になったか、私の妻は疑り深い。
何度でも私に愛の言葉を捧げろと強請るのだ。
淋しい、淋しいと強請るのだ。
私は足軽と兼業農家の三男坊だった。
長太郎、文次郎と兄に次いでの名前だったのだが、今は名前を現世に置いてきたので無い。
私は幼少の頃から、穏やかで豊かな湖の元で元気に育った。
山から流れる川が、上質な栄養を水に溶かし込んで湖を豊かにし、生き物や作物を育ててくれた。
そんな湖の近くの村で、両親と祖父母は主に稲作と畑を耕す事で日々を暮していた。
私が生まれてからは戦も無くなっていたので、比較的穏やかな暮らしであった。
しかし、長兄が家を継ぎ次兄が独立した矢先に飢饉が起きた、全く雨が降らなくなり干ばつが起きたのである。
それは酷い有様だった。
村の老人たちは、湖の主の祟りだと言い、百数十年前の飢饉を終わらせた祭りを行う事となり、村の若い衆で未婚の者が集められ三日三晩の会合の後、一人が祭りの主に決まった。
それが人柱様であり、私だった。
人柱は船に乗せられて湖の深い場所まで連れてゆかれる。
柱と言うから土に埋められるかと思ったが、湖の底まで石を巻きつけて沈むのだ。
堪忍してくれな・・・申し訳ない・・・
もう行かねばならぬと言う瞬間、なんまんだぶつと皺枯れた声が後ろからして、ドボンと小気味良い音と共に私が沈んでゆく。
水の中から上を見上げると、爺様たちの沈痛な表情が可哀想だった。
気にすんな、気にすんなよう・・・
言葉は泡になって溶けてゆく。
もっと笑って沈んでやれば良かったと思いながら、肺から空気が無くなって体中を水で満たされる。
私が好きな湖の、これまた肥やしになるのなら、まあいいか。
まあ、いいんだ。
ゴポリ、ゴポリ・・・・・・
トン、と言う違和感の元、思いの外水底へと着くのが早いと思ったら、抱いていた石は何処かへ消えて着ていた白い着物は紬でできた上等なものになっていた。
あれ、息ができる。
そ
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