いやよいやよも好きの内、とは言いますが。
それは行為ではなく、してくれる相手が好きだから。
「ねえ、店員さん。ちょっといいかしら?」
ここは、とある親魔界領の街の一角。
見て分かる通り、洋服…主に婦人服を販売しているお店です。
僕は接客係として、若輩ながらもこのお店で働いています。
名前はソラ。お見知り置き頂けますと幸いです。
「下着はどこに置いてあるの? 私のじゃなくて、子供用の…」
大きな胸を弾ませながら、可愛く首を傾げるサキュバスのお客様。
見慣れた光景ではあるものの、つい胸がドキリと高鳴る毎日です。
逸る胸中を隠しながら、僕は彼女を下着売り場まで案内しました。
どうやら、お子様用の下着を選びにいらしたようです。母親は大変です。
ですが、お子様用とはいえ、魔物は魔物。下着もとてもエッチです。
人間の母親が見れば、一目で卒倒してしまうに違いないでしょう。
布地の面積が狭かったり、透けていたり、穴が空いていたり…。
もちろん、年相応の可愛らしいものもありますが、人気が差は歴然です。
さておき、お客様は一通り物色された後、いくつかの下着を手に取りました。
前貼りのような下着を手に、満足気な表情を携えたお客様。幸せそうです。
僕も笑顔で会計を行い、店を出るお客様の背中へ、感謝の意を送りました。
外はもう冬仕度。木枯らしを身に受けながら、お客様は路地の彼方へと消えていきました。
…艶めかしい衣服の森の中で、再び一人だけとなった僕。
会計所裏に回り、小奇麗な椅子へ、よいしょと腰を下ろします。
時刻は…おやつ時を回った頃でしょうか。
この時間帯は訪れるお客様も少なく、暇であることが多いです。
そんな時は、こうして椅子に座って、のんびりと過ごすことが多いです。
最近では、編み物をして時間を潰すということも覚えました。
ですが、今日という日には、それも長く続きません。
お客さまこそ来ませんが、とある声が届いたのです。
「ソラーッ」
僕を呼ぶ声。あの高い声は、店長のものです。
恐らく、いつも通り作業室から僕を呼んでいるのでしょう。
元気良く返事を返し、僕は立ち上がりました。
店長が居るであろう場所へ向かおうとして…ふと、思い出すことがひとつ。
僕は引き出しから呼び鈴と注意書きを取り出し、カウンター上に置きました。
こうしておかないと、お客様が作業室の方まで来てしまうかもしれないからです。
予防も済ませ、僕は早足で店長の元へと向かいました。
作業室の扉の前に立ち、深呼吸をひとつ、戸を3回ほどノックします。
「ノックはいらないわよ、ソラ」
扉を開けての第一声、にこやかな笑顔と共に、店長はそう言い放ちました。
彼女こそが、この店の長。アラクネという種の魔物で、名前はラクネさんといいます。
8本の足を忙しなく動かしながら、店長は僕の手を引いて、部屋の中へと招き入れました。
この小さな部屋の中に置かれているものは、機織り機と大きな鏡、そしてベッドです。
店長は、ここで毎日何十着もの服を織っては、お店に並べて販売しているのです。
当然ではありますが、陳列棚に置かれた全ての服は、店長オリジナルのデザインです。
さて、僕が呼ばれた理由ですが。
これは店長の口から説明がなくとも分かります。
新しいデザインの洋服が完成した、ということでしょう。
「ほら、見て。新しい服を作ったの。キャミソール」
予想通りの言葉と共に、店長は自慢げに新作を見せてくれました。
淡いピンク色の、フリフリのキャミソールです。おまけにスケスケです。
いかにも店長好みな服だと思いました。可愛い系とアダルト系が大好きですから。
インプや魔女のお客様に人気が出そうだな…と思いながら。
僕はひとまず、店長の努力の結晶を褒めました。素直に、思うがままです。
店長は、そうでしょう、そうでしょうと言いながら、満足気に相槌を打ちました。
普段はクールに振る舞う店長ですが、作品を褒められた時は、少女のように喜びます。
恥ずかしながらも、僕はそんな店長の振る舞いを見て、可愛いと感じてしまうのです。
「それでね、ソラ…」
ふと、顎に手を添えながら、店長が僕をちらりと見やります。
それはただ見るというのではなく、品定めをしているかのような視線です。
もう少し具体的に述べるのであれば…ちょうど、獲物を狩る獣の目と同じです。
僕は、次に出てくる言葉を薄々察しながらも。
何も知らないかのような口調で、店長へと尋ね返しました。
「大したことじゃないわ。ただ、いつもみたいに…」
独特の足音と共に、こちらへと歩み寄る店長。
そして手に持ったキャミソールを、おもむろに僕の身体へと重ねます。
「この服を、ソラに着てほしいの…
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…その一言に、僕の心は乱れまし
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