大空を舞う、翼を持つ者達さえ。
雛の時は、大地を足で踏みしめている。
「…私のパートナー? この子供が?」
いかにも怪訝そうな表情で、僕を見る彼女。
その大きな身体は、間近で見ると更に迫力がある。
広げれば、家さえも覆ってしまいそうなほどの巨翼。
鋭い鉤爪に、深緑の鱗。うねる尻尾は、まるで大蛇だ。
この人が僕のパートナー、ワイバーンのヴァンさん。
「どうして私なんだ? 騎士候補の子なら、卵を渡してやった方が…」
ヴァンさんの疑問を受け、頭を掻きながら答える騎士団長。
彼女の言い分はもっともだけれど、そうはいかない理由があるのだ。
それを説明する前に、まず、僕の住む国を紹介しよう。
国の名前は『ライディング』。見て分かる通り、親魔物領だ。
そして世界でも数少ない、空・地・海の騎乗兵を揃えた軍国でもある。
僕は空の騎乗兵になるべく修練を積んでいる、騎士見習いの一人。
名前はソラ。我ながら、これほどぴったりな名前もないと思っている。
「卵がもうない? 幼い子達は? 全部宛がわれた…?」
僕達の国は軍国だけれど、勘違いだけはしないでほしい。
どこかの国と戦争をするために、剣の腕を磨いてるワケじゃない。
あくまで僕達は、弱者を守るための正義の剣。防衛が主たる任務。
自分達の国や弱国が危機に晒された時、初めてその力を振るうのだ。
それを為すために編成されたのが、空・地・海の騎乗兵団。
大空の自由を守る、飛竜を駆るワイバーンの騎士。
大地の恩恵を守る、人馬を駆るケンタウロスの騎士。
大海の慈愛を守る、人魚を駆るマーメイドの騎士。
各々の局地に特化した、まさに世界最強の騎士団なのだ。
「…それで、残り物の私に役が回ってきたのか…」
今はまだ未熟だけれど、いずれ僕もその一員となる。
そのためには、何よりもまずパートナーが必要だ。
普通なら、まずは彼女達の卵、あるいは赤ん坊を授かるところから始まる。
幼い頃より互いの絆を深め合うのが、騎士に一生課せられる任務だからだ。
とはいえ、彼女達はとても友好的だから、それを苦に感じることはないらしい。
それどころか、ほとんどの騎士がパートナーと愛し合い、結婚までしている。
生涯の友にして、生涯の伴侶。騎士とパートナーが抱く、互いの認識である。
だから、今回の措置にヴァンさんが首を捻るのも当然だ。
彼女はもう成体になって久しいようで、僕よりずーっと年上。
それでも綺麗なお姉さんに見えるのは、魔物の血が成せるワザだろう。
並んでみれば、歳の離れた義姉に見えなくもない…と思う。
ともかく、僕達が結ばれるのは異例のことなのだ。
理由はさっき団長が話した通り。卵も、幼い子もいないから。
人間が産まれる速度に比べると、彼女達の繁殖は非常に時間が掛かる。
すると、時折こうしてパートナー不足に陥ってしまうこともあるのだ。
「分かった。だが、決めるのは私じゃない」
でも、ここでひとつの疑問が湧く。
彼女は何故、誰ともパートナーにならず残っていたのか。
その理由までは、僕は団長の口から聞いていなかった。
ただ、薄々予測はついて…。
「ソラ…、だったか」
名前を呼ばれ、そちらへと顔を向ける。
見ると、ヴァンさんが鋭い視線をこちらに投げ掛けている。
怒っている…のではないと思う。ワイバーンは総じて目付きが鋭い。
その威風堂々とした出で立ちからも、高圧的に見られがちだけれど、
実際の彼女達は心穏やかで優しい性格だ。恐がったりしてはいけない。
「お前は、私を信頼してくれるのか…?」
少し不安を含んだようにも見える、彼女の問い掛け。
信頼は、騎士とパートナーにとって一番重要なものだ。
愛が与え合うものならば、信頼は委ね合うものだと団長が言っていた。
一人だけではこなせない厄介事を、二人で乗り越えてはじめて半人前。
パートナーの為すことが自分の読み通りになって、やっと一人前だと云う。
当然ながら、口で言うほど簡単じゃない。
団長を見ていれば分かる。信頼というものがどれほど凄いか。
以前、お祭りの時に、剣を用いた演舞を見たことがあるのだけれど、
そこでの団長とパートナーの動きは、まさに阿吽の呼吸だった。
お互いの身体を掠るようにして舞う恋人の剣に、まったく臆さない。
鼻先を刃が撫でようとも、二人とも、瞬き一つしないのだ。
剣の腕前もそうだけれど、やっぱりそれは、信頼なくして出来ない技。
彼女が今問うているのは、その意思と勇気が、果たして僕にあるか。
自らの背中に乗せていい人間か。どんな言葉であろうと受け入れてくれるか。
例え空に恐怖を抱いていようとも、自分と一緒ならば飛んでくれる相手か…。
僕は、その想いに応えるべく。
まっすぐ彼女を見据え、深く頷いた。
「………」
すると、予想外の反
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