逆巻永愛

異性というのは、この世に数え切れないほどいるものだ。
しかし、自分と結ばれるのは、その中でも…たった一人。

「…壮観だな」

目の前の光景に、思わず胸の内が洩れる。
右を見ても左を見ても、男、男、男…。ざっと100人弱。
老若問わず、大小問わず、性格問わず、容姿問わず。
宝の山。そんな言葉が似合う、圧巻されるほどの男の数だ。

これが、今回私達が行った『男狩り』の成果。

「………」

『男狩り』とは、その名の通り、人間の男を狩ることだ。
ただ、狩りといっても、決して彼らの命を奪うわけではない。
人里を襲い、まだ女を知らぬ男性を頂戴してくるだけだ。
婿探し、と言ってもいいだろう。『男狩り』は恋人探しなのだ。

恋人探しならば、なぜ襲う必要があるのかと問う人間がいる。
それは魔物本来の姿…血に飢えた獣の証だと叫ぶ、早とちりな人間もいる。
彼らは未だに、なぜ私達が人里を襲うのか理解できていないようだ。

「…ふむ」

『男狩り』には二つの意味がある。

ひとつは、成人の儀式としての意味だ。
古来よりアマゾネスは、生まれながらにして戦士の宿命を授かった種族。
何者よりも勇敢で、強く、そして美しく。女戦士の祖とも云われている。
「深森の女戦士、剣を抱き生まれ、剣の下に眠る」という詩が示すように、
私達は幼い頃から戦士としての教育を受け、剣と共に育ちゆくのだ。

その中で『男狩り』は、戦士が一人前となったことを証明するための大切な儀式。
しかし、それを証明するのは、卓越した剣の腕前や洗練された武術などではない。

アマゾネスの戦士にとっての一人前とは、自分の想い人を見つけることだ。
剣を満足に振るえなくとも、自らの力で想い人を掴んだ者は、竜を討つ者より素晴らしい。
幸せを掴んでいるからだ。他の誰でもない、自分自身の手によって。
自ら幸せを手に入れられる者を、私達は一人前の戦士として称えるのだ。

「………」

もうひとつは、人間の男達に、男性のあるべき姿を教え込むためだ。
人間の社会においては、男性が剣を持ち、女性が家を守る立場となっている。
よって、私達が人里を襲うと、迎え撃ってくるのは男性の戦士である場合が多い。

それが如何に、私達にとって理解し難いことか。
男とはか弱い存在だ。持たせる刃は、剣ではなく包丁であるべき。
しかし彼らはそれが分からない。男は戦うものだと思い込んでいる。
だからこそ、まずはその凝り固まった思想を打ち砕く必要がある。
勇猛果敢に。されど、その珠の肌を傷付けることのないように。
私達は幼い頃より鍛えた剣の腕をもって、彼らの間違った男性像を矯正する。

こうすることで、男達は己の弱さを知る。
最初こそ、彼らの中の概念が破られたことで、落ち込んではしまうものの、
私達の夫として生活することで、次第に正しい男性像を身に付けていく。
料理を作ったり、編み物をしたり、おしゃれをしたり、子供を育てたり…。
それが彼らの新しい自信、生き甲斐となり、幸せを感じるようになる。
『男狩り』は、人間の男性を正しい方向へと導く矯正術でもあるのだ。

「………」

さて、その『男狩り』を終えた今。
私もこれで一人前の戦士かと言えば、そうではない。
先にも述べたように、想い人を見つけて、初めて一人前なのだ。
いくら『男狩り』に参加しようと、意中の相手を見つけられねば意味がない。

そのことを、身をもって示している戦士もいる。
あそこにいる、前髪の長い彼女。目付きが異様に鋭い戦士がいるだろう。
彼女はもう、30回近く『男狩り』に参加しているらしいが、未だに未婚だ。
聞いた話では、昔に自分を負かした勇者の男性に惚れ、探していると云う。
尻に敷かれるのが好きなタイプなのだろう。まぁ、中にはああいった者もいるのだ。

「…ん」

特殊な例はさておき、誰しにも多少なり好みというものはある。
面喰いな者、性格で選ぶ者、家事の得手不得手にこだわる者、直感に頼る者…。
捕らわれた男達が様々ならば、選ぶアマゾネスも様々だ。十人十色、誰もが違う。
だからこそ、皆こうして慎重に…されど他者に奪われる前に、自らに合った夫を選ぶ。

逆に、珍しいケースではあるが、男の方から誰と結ばれたいかを申し出る場合もある。
それは選ばれた女性にとって、この上ない喜びであり、戦士としての誉れだ。

なぜなら、私達の最もたる好みは共通しているからだ。
「自分を好いてくれる男性と結ばれたい」。これが私達の想い。
些細なことで良い。ほんの少しでも、自分に興味を抱いてくれれば…。

「………」

…その僅かな想いを、今、私は感じた。
この少年から。ふと目が合った、この男の子から。

「…お前」

傍に近付く私に対し、身を縮こまらせる少年。
かなり若い。やっと性を覚え始めるかという
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