第六記 -シー・スライム-

…海。
照りつける太陽。
白い砂浜。
ここはこの世のアバンチュール。

そう、今の私は、この大海原を前にしてハイテンションなのである。
何故かと聞かれれば、海を見るのが初めてだからだ。人生初なのだ。
もちろん水着も初めてである。試着できないから、お店でものすごく悩んだ。
悩んだ末は、Aライン!

右を見ても、左を見ても、誰もいない。独占ビーチ。
水玉のシートにリュックを置いて、準備運動もそこそこ。
思いっきり駆けだして、ぽーんっと、頭から海に飛び込んだ。

…目を開けると、とても不思議な世界が広がっていた。
青い世界。どこまでも広がっている。終わりなんて見えない。
川の、石だらけの景色とは違う…。無個性な空間。
これが本当の、水の世界。

………景色が変わってくる。
あれは…サンゴ、って名前だったと思う。きれいだけど、ちょっときもちわるい。
魚も泳いでいる。見たことがない魚もたくさん。大きいのも、小さいのも。
ヒトデ、貝、名前のわからないもの、たくさん、たくさん。

…息継ぎに、海面へ上がる。
ついつい遊び気分になってしまっている。気合を入れ直そう。
ここに来た一番の目的は、魔物の研究なのだ。遊びはそのついで。

お目当ての魔物は、シー・スライム。
その名の通り、海のスライムで、くらげみたいな下半身が特徴のコ。
うーちゃんオススメのひとり。危険性はほぼゼロと、とっても安心。
拉致されたり、身体が魔術や薬で毒されることもない。
触手には麻痺毒があるけれど、行為が終われば放してくれる。
これほどぴったりな相手はいないと思う。

普段は水の流れのままに漂っているらしいけれど…見つからなかった。
色が水とほぼ同じらしいから、見逃しちゃったのかもしれない。
泳ぎや景色に夢中になっていたわけじゃ…ない、はず。

大きく息を吸って、再び水の世界へ。
こんどは、向こうを探してみよう。

……………

………



…見つけた。見つけた…が、群れている。
水の流れがあそこに集中しているのか、1、2………7。ちょっと多すぎる。
ひとり相手でなんとかなるかも…なのに、これはちょっと…。
観察だけなら、これでもいいんだけれど。

でも今回は、どんな情報を得るのか、もう決めてある。
触手から出す麻痺毒。それが欲しい。そのための道具ももちろん用意済み。
シー・スライムの麻痺毒は、行為中にしか採取することができないらしい。
そのせいでサンプルが少ない…つまり、研究途上の部分なのだ。お仕事になる。

ただ、その採取方法が…ゴム栓のついた、試験管。
これを、麻痺毒を注入しようとする触手の内の1本に、うまく刺す必要がある。
シー・スライムの触手は、大人で約50本弱。結構多い。
この内の一部が麻痺毒を注入しようと動くのを、見極めなくちゃいけない。

…それが350本弱に増えるというのは、もう、無理難題。
諦めて、他のを探そう。あれだけいるなら、他にもいるはず。
と、その前に息継ぎ…。

…あれ、と違和感。
遠くの方…海面が、へこんでいるように見える。………渦潮?
こっちには影響なさそうな距離だけど、離れた方がいいかな。
何があるか分からな―

―がぼっ…!?

景色が変わる。
何が起きたか分からない。上も、下も。右、左。それに…すごく、しょっぱい。
…泡が消えて、海の中だと気付く。苦しい。水を思いっきり飲んでしまった。
もう一度海面に上がろうとして…気付く。
両手、両足…違う、全身、何かに掴まれている。

…シー・スライム。
あの渦潮のせいで水の流れが変わったのか、単純に見つかってしまったのか、
いつの間にか周りを取り囲まれ、自由を奪われてしまっている。
ふわふわ、水に浮かぶ魔物達。一転して、観察されている。

―ごぼっ…! ぅ…っ。

塩辛さに、咳き込む。空気が欲しい。
このコたちに危険は無くても、こんな危険が潜んでいたなんて…。
空気が欲しい。空気。苦しい。苦しい。苦しい…!

…ふと、目の前に、困ったような顔のコがきた。
そして…首に手を回して、顔が、近く………唇が、重なる。

「〜
#9829;」

………空、気。
空気が、ある。送り込んでくれている。
呼吸を…リズムを、そのコに合わせようと、がんばる。少しズレ気味。
それでも、苦しさがどんどん和らいでくる。生き返るような心地。

「〜♪ 〜〜
#9829;」

不意に…胸を、撫でられる感触。
…このコ、じゃない。横目で追うと、どうやら背にいるコが触っているようだ。

…身を任せる。
危険は少ないっていうこともあるけれど…、
何より、わるいコたちじゃないと…思う、から。

「〜
#9829;」

胸だけじゃなく…いろんな場所が、刺激される。
ゼリーのような触感が、胸を…脇腹を…首筋を…背中を…ふくらはぎ…
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