狩人斗狼

あぁ、彼女の遠吠えが聞こえる。
風を震わす、彼女の声が。

今日の食事はなんだろう。
また兎を獲ってくるのかな。鳩かもしれない。
それとも、久々にシドさんのところへ行ったのかも。
彼の焼くパンの味が、そろそろ恋しくなっている頃だろう。
3つ…いや、4つか。彼女ならそれくらいの数、ペロリだ。

颯々と、草を分ける音が聞こえる。

怪我はしていないようだね。よかった。
お前が魔物になってから、怪我が多くて心配だよ。
人間のような、大きな身体は慣れないかい?
すまないね。僕の足が、駄目になってしまったばかりに。
お前がいてくれて、本当に助かっている。ありがとう。

―ワンッ!

おいで。鍵は開いているよ。

―ハッ、ハッ…。

おかえり、ウル。

おや、今日は随分と大物だね。
まだこの森にも狸なんていたのか。
こんな枯れ果てた森に、物好きな。
なぁ、ウル。僕達だけで充分なのに。
だけれど、折角の命だ。感謝して頂こう。

さて…。ん。あぁ、そう。そうだよ、ウル。偉いね。
でも、大丈夫だよ。ナイフくらいなら、僕も取れる。
お前が取ると、少し危なっかしい。口が傷付いてしまう。
前は届かない位置だったけれど、今のお前には届くからなあ。
置き場所を考えないといけないね。お前は、優しいから。

―クゥン…。

ははっ。お腹が空いて待ち切れないかい?
ごめん、ごめん。今切るよ。ほら、血が出たぞ。
皮はどうするかな。これでお前の服でも作ろうか。
そんなボロの布を巻いただけじゃ、貧相だろう?
そうだ、腹巻が良い。お腹を雷様から隠さなきゃ。

さぁ、切れたよ。お食べ。
…うん、良い食べっぷりだ。美味しいかい?
そんなに掌を舐めなくても、次のをあげるよ。
ほら。お前が獲ってきたんだから、たくさんお食べ。
僕は、これだけ分けてもらえればいいよ。炙って食べようかな。

―ハグッ、クチャクチャ…。

そういえば、ウル。今夜は満月だったかな。
すまないけれど、窓を開けてくれないかい?
硝子がすっかり汚れてしまってね、外が見えないんだ。

―ワンッ!

ありがとう。

あぁ、満月だね。ご覧、綺麗な夕月だよ。

―………。

痩せた森も、こうして見ると幻想的だ。
なあ。お前がお姫様で、僕が王子様かもしれない。
ディナーは狸肉の炙り焼き。豪華なものじゃないか。
なんだ? お城には蜘蛛の巣なんて張ってないって?
そうだなあ。あれもどうにかして、掃除したいのだけれどなあ。

―…クゥン…。

違う、違う。お前を叱っているんじゃないよ。
ほうら、撫でてあげよう。うなじが気持ち良いんだろう?
そおら、そおら。良い顔だ。いつもその顔でいておくれ。

―ハッ…、ハッ…。

さて、今の内に少し眠ろう。
満月なんだろう? 起きたら、お前を手伝わないとね。

…おや。甘えん坊だ。いいよ。一緒に眠ろう。
もし僕が寝坊したら、起こしておくれ。強めに頼むよ。

おやすみ、ウル。

……………

………



………う……ん…。

―ペロペロペロペロ…。

んん…。ウル、起きた。大丈夫、もう起きた。

―ペロペロペロペロ…。

ウル。大丈夫。大丈夫だ。起きたよ。

―ハッ、ハッ…。

しこたま舐めてくれたね。どろどろだ。
いや、僕が寝坊したせいだね。ごめんよ。

―ワンッ!

そんなに慌てなくとも、逃げはしないよ。
今服を脱ぐから、もう少しだけ待っていてほしいな。
ズボンが相変わらず脱ぎにくくてね。穿く時も億劫なんだ。
来客がいなければ、脱ぎっぱなしで構わないんだけれどなあ。
脱いだまま、誰かを出迎えてみろ。どうなると思う?
きっとその人は、お前が驚くくらいの大声を上げるぞ。

よし。次は、お前も裸にならないとね。
動かないでおくれよ。…そう、良い子だ。

そらっ、取れた。

―ワン、ワンッ!

おおっと。元気だね。
まさかお前とこんなことをするなんて、夢にも見なかったよ。
前にも同じこと、言ったかい? それくらい驚いているってことさ。

ほら、お舐め。お前の好きなものだよ。

―クン…、クン…。

いつも臭いを嗅ぐね、お前は。
良い香りでもないだろうに。僕でも分かる。
でも、気持ちは分かるよ。僕も、お前のを同じ様に嗅ぐもの。

―…ペロッ
#9829; チュッ…
#9829; ペロ…ペロ……
#9829;

美味しいかい? そんなに涎を垂らして。
この時ばかりは、お前が女に見えるよ、ウル。
雌じゃない、女にね。だから、どうしても興奮してしまうんだ。
不思議だね。普段のお前を見ても、欲情なんてしないのに。
ごめんね、ウル。きっとお前は、いつもそう見てほしいんだろう?

―レロォ…ッ
#9829; チロチロチロ…
#9829;

それにしても、覚えが早いなあ。
昔からそうだけれど、教えていない
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