…一呼吸置いて、ノック。
「はい」
返ってくる、澄んだ声。
それを聞いてから…ゆっくりと扉を開く。
部屋の中には…机で何か書きものをしていたらしい、おねえちゃんの姿。
日記をつけていたのかな? ちょっとタイミングが悪かったかもしれない。
「ソラちゃん。どうしたの?」
…部屋に入り、扉を閉めて……2、3歩、歩み寄る。
「………」
その様子を見て…立ち上がり……ベッドに腰を下ろす、おねえちゃん。
お風呂から出たばかりなのか、髪がしっとりとして、艶々しい。
…どことなく、色っぽい。
「…おいで」
……誘われるままに…その隣へ、腰を下ろす。
視線を低く、おねえちゃんが私を見つめる。
いつもの…優しい、やさしい瞳。私だけに向けられる瞳。
「………」
……何も言わないまま…指で、私の横髪を耳に掛ける。
ここから、少し顎下をくすぐった後、髪を撫でてくれるのが、おねえちゃん流。
私は、その心地良さに溺れるように…されるがまま、身体を委ねる…。
「…白い髪も、思ったより似合うね」
おねえちゃんの柔らかな指が、長くなってきた髪を梳いて…。
「………」
「……ソラちゃん」
「決まった?」
ポケットの中の…ぷーさんから貰った指輪が、身体の動きに合わせ、わずかに揺れ動く。
でも、撫でる手は、そのリズムを変えぬまま…。
「………」
…さっき、外に出た時……空には、満天の星が輝いていた。
それに、満月。夜で、森の中なのに、この家だけは月明かりに照らされて…。
きっと、ここの窓からも、そんなきれいな夜の空が見えるはず。
でも…今は、それさえも意識の外。
「…待って」
言い掛けようとしたところで、その言葉を止め……撫でていた手で私を抱き寄せる、おねえちゃん。
……小さく…心音が聞こえる…。
「…その前に、私から…だね」
ふんわりとあたたかい、おねえちゃんの胸の中…。
「………」
「…私も、さ」
「やっぱり、女だから…」
…耳の上…額の横を撫でてくれる、指先……。
「男の人を好きになって…恋愛するのが、普通だと思ってる」
「奥さんになって…子供を産んで。犬を飼ったりして…」
……少しずつ……声が小さくなっていく、おねえちゃん…。
それを補うかのように…私の頭にほほをくっつけて、囁くように…。
「…でも」
「そこで、恋愛ってなんだろう…って考えた」
「…おねえちゃんさ、実は今まで…男の人と付き合ったこと、ないんだ」
照れ隠しの様な、笑い声。
「……恋愛するってことは…」
「手を繋いだり、キスをしたり、セックスをしたり…」
「色んな手段で、お互いの愛を確かめることが、そのひとつ」
「…一緒にいるだけ…でも、そうなのかな」
「これだけは、私にも分かる…恋愛するって形」
「他にも…それこそ、恋愛している中でしか分からない形もあるんだろうけれど…」
「今の私には分からないから、その尺度でしか、考えることができない」
…目を閉じ……自分の中の何かを確認するように……おねえちゃんは、言葉を紡ぐ。
「私は…」
「手を繋ぐのは、小さい頃からだけれど…」
「……キスも………セックスも……」
「…きっと、嬉しく感じると思う。ソラちゃんに、そうされるの」
…強く、大きくなる鼓動…。
どちらのものかも、分からない。
「…でも、逆は……私からは、抵抗があるかな…」
「していいのかな、って…。仮に、ソラちゃんがいいって言っても」
「…一度しちゃえば、考え方が変わるのかもしれないけれど…」
……もう片方の手も…私の頭に絡めて、ほんの少し、強く抱きしめる…おねえちゃん。
「………」
「…ソラちゃんが……さ」
「私のこと、ずっと…一生愛してくれる、って言ってくれたら……」
「……私、応えるよ」
……………。
…少しだけ身体を離して…互いの視線が、交差する。
「………」
「…実は、私…ソラちゃんに秘密にしていることがあるの」
「村の温泉での事…。ソラちゃん、覚えてる?」
「……あの日の夜、さ……」
「私、ソラちゃんでオナニーした」
「初めてだった。同性のことを考えて、オナニーしたのなんて」
「……どう思う? ソラちゃん」
目を細めて…おねえちゃんが、私に問い掛ける。
当然、答えられる訳もなく…ただ、しどろもどろ。
「…夢の中のソラちゃんも、とても可愛かった」
「とても恥ずかしそうな顔をして、ベッドの上に寝ているソラちゃんを…」
「一枚ずつ脱がしていって……安心させる言葉を掛けて……」
「…私だって、何も知らないくせに…ずっとリードして…」
「……最後は…お互い身体を擦り付けて……」
「…気付いたら、シーツ、びしゃびしゃだった。あははっ」
笑いながら
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