「…その御方は、このチューゼンジ湖の底で眠っているのです」
白蛇…ハクさんが手で示す先には……紅葉した山々を逆さまに映した、広大な湖。
…この湖の底に、リムさんの身体を治す方法を知っているかもしれない魔物がいる…。
クノさんとハクさんの話では、その魔物はジパングでも1,2番目に偉い魔物。
普通、個人の願いを聞くために、姿を見せることなんて無い…って言ってた。
幸いなことに、今回だけは、あることを条件に会わせてもらえることになったのだ。
というわけで、私とクノさん、ハクさん以外は、お屋敷のお茶の間でお留守番。
「ソラ」
傍らに立ち、私を呼ぶクノさん。
「ありのままで良い。…臆するな」
…クノさん、いつも通り…威風堂々としている。
第一印象こそ、すごく恐かったけれど…そんなの、今はどこ吹く風。
…私の身体について、魔界まで情報を探しに出てくれたこと…。
ハクさんからそれを聞いた時……嬉しい、って気持ちが溢れた。
だって、たった一度しか会っていない私を、そこまで気にしてくれて…。
その一度っていうのも、クノさんが私を助けてくれた…っていうお話なのに…。
その優しさ……心の強さが、こんなに人を強く見せるのかな…。
「…では…」
呟き……ぼぅ、と…ハクさんの指先に灯る…青い炎。
あの日見たものと同じ…、水の中で燃えているような炎…。
ゆらゆらと揺れるそれは…ハクさんが放るように手を振ると、
指から離れ………湖の中へ、とぷん…と落ち……沈んでいった…。
……………。
「………」
「………」
…………あっ。
「…御目覚めになった様です」
炎が沈んでいった場所に、何か…動く影が見える。
大きい。魚や動物じゃない。あれが…さっき話していた、魔物。
龍。
「なんぞ…妾に何か用かえ、ハク」
ざぶんっ…と音を立て、宙に浮かび現れる…大きな大きな姿。
上半身…人間の姿に当たる部分は、背の高い大人くらいのものだけれど、
大きいのは、ハクさんやメディちゃんと同じような…長く伸びた下半身。
そこには、ラミア種には無い、たてがみのような毛が先端まで生えている。
人間の姿の部分も、かなり特徴的。
鹿の様な角。大きな胸の元に埋め込まれた、変わった形の宝玉。
手は、服の隙間から見える…肩までは人間のそれと変わらないけれど、
袖を抜けた先は、どんな強固な鎧でも引き裂いてしまいそうな、獣の爪を持つ腕に。
その両の手が大事そうに抱えている…金色の球体。これも、ふわふわと浮いている。
…見た目からして、他の魔物とは一線を画す…何かを感じる。
「御気分は如何ですか?」
「さあてのう…。寝起きで頭が働かんかいに」
……訛り…なのかな?
「して、わざわざ妾を呼ぶとは、良い男でも連れてきてくれたのかえ?」
「いいえ。龍様の御力をお借りしたく、御目覚めになって頂きました」
ロン様。ちょっと男の子っぽい名前。
「力添えと言わばんば、ハク、妾の全て、ぬしに託したであろう」
「『水神』としての役目も、子を持たずして衰えた妾の後を継ぎ…」
「ぬしは、妾を安心して眠りにつける様にしてくれた。其れは間違いか?」
「いいえ。お借りしたいのは、知恵の御力です」
「知恵…とな?」
「はい。その齢二千となる御身に刻まれた知恵、御拝借ください」
私が話すと舌を噛みそうな言葉を、淡々と交わすハクさん。
それにしても、齢二千…って、つまり……2000歳、ってことだよね?
魔物娘の中には、とても長生きな種もいるって図鑑には載っていたけれど、
私が80歳まで生きられたとしても…25回分の人生。圧倒的。
「その知恵とは?」
「我々の仲間に、魔物の身でありながら男性器を宿した者が居ます」
「ほう…」
少し身を乗り出し…興味深げに、私を見るロン様。
「その者かえ?」
「いいえ。西洋の魔物…リリムです」
「王の娘か。それは滑稽な」
宙を泳ぎながら…地を這う蛇のように……龍が私の目の前へ近付いてくる。
「ならば、此の者は妾の使いを望む、新たな蛇となる者か」
「いいえ」
ハクさんの答えに、表情を変え…振り向く。
「…贄か?」
「はい。男の贄です」
「男とな!?」
また、表情が一転。先程から眉一つ動かさないクノさんと、とても対照的。
「…ぬし、歳は幾つか?」
問われ……素直に、答える。
「………ハク」
「はい」
「此の者は、人間なのだな?」
「はい」
「男なのだな?」
「はい。ですが、女でもあります」
「成年ではないのだな?」
「はい」
「………」
……私の方へ向き直り……複雑な表情を浮かべるロン様。
「…一先ず、続きを申せ」
「はい。その者の男性器を失くすことは出来るのでしょうか?」
「出来
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録