第四十二記 -ユニコーン-

…障子窓を開くと、涼しい風が舞い込んだ。

「良いお湯でしたね」

火照った身体が落ち着いていく心地良さを感じながら、ユニちゃんの言葉に同意する。
前はゆっくり浸かることが出来なかったけれど、今回は存分に温泉を楽しめた。
身体もぽかぽか、心もぽかぽか。旅の疲れなんてどこへやら。

「二人のお薦めなだけはあるね。気持ち良かった」

おねえちゃんも満足みたい。よかった。

「ふぅ…」

溜息をひとつ、座布団に腰を下ろすおねえちゃん。

…隣の部屋の皆は、もう温泉に入ったのかな?
あーちゃんと、メディちゃん、うーちゃん、サキュさんに、リムさん。
こっちの部屋は、今入れ違いでももちゃんとドラちゃんが入りに行ってる。

…ここの温泉、結構温度高めだけど…メディちゃん、大丈夫かな…。
熱いの、全般的に苦手みたいだけれど…。

「………」

……おねえちゃんの横に、ちょこんっ。

「ん…。……ふふっ…」

………あっ…。撫でてくれた…。やったっ。

「ミーファ様、一人占めは駄目ですよ」

ユニちゃんも、隣に座って…なでなで。
私もお返しに、おねえちゃんをなでなで。ユニちゃんもなでなで。

「…ソラ様…
#9829;」

ユニちゃん、とっても気持ち良さそう。
見ている方も幸せを感じちゃうような笑顔。
私も思わず、笑顔になる。

幸せな時間…。

「……よいしょ」

空いた手を伸ばし…机の上のお酒と盃を、自身に寄せるおねえちゃん。
温泉に入る前に、おねえちゃんが宿の人に注文していたもの。

「じゃあ、ごめん。一人でいただきます」

「あ、お酌を…」

「いいよ。ありがと」

ユニちゃんの申し出にお礼を言いつつ…手酌でお酒を注ぐ。

「…んっ……」

くいっ、と…一飲み。

「…っふぅ」

そして、一息。

…すごく新鮮。
おねえちゃんがお酒を飲んでる姿、はじめて見た。
年齢的に、飲んでいてもおかしくはないけれど…意外。

……でも、かっこいい…。
なんていうか……大人、って感じがする。お酒が分かる、大人の女性。
微笑んだ表情ではあるけれど、どこか憂いを感じる様な…どう言えばいいかな…。

………どき、ってする…雰囲気を漂わせていて……。

「………」

「……あのさ」

誰とも目を会わせず、前を見たまま話すおねえちゃん。

「私、今酔ってるから…変なこと言ったら、ごめんね」

…え? もう? 一口で?

「…飲み過ぎないでくださいね、ミーファ様」

「うん…」

うん、飲み過ぎは駄目。明日も早いし。
おねえちゃんなら、そういう心配はいらないとは思うけれど…。

「………」

「………」

「………ソラちゃんってさ」

私? なんだろう?

「誰が一番好きなの?」

……………え。

「ユニさん?」

…ほんの少し、振り向く。
……目が合って、にこっ…と微笑みを返してくれる、ユニちゃん。

「それとも…ももさん、だっけ。あと、ドラちゃん?」

手に持った盃を、僅かに揺らしながら…おねえちゃんは言葉を続ける。

「…ソラちゃん」

「理由は何でもいいから、さ…」

「料理が美味しいとか…、美人だとか…、性格が優しいとか…」

「…床上手だから、でもいいんだから…」

「誰か一人に、決めてあげなよ」

……えっ、と……。

なんだろう、これ。いきなり、なんだろう。
おねえちゃん、本当に酔っちゃったのかな…?
言っている事は分かるけれど、突然過ぎて、よく分からない。
どんな思いがあって、おねえちゃんはこのお話をしているんだろう。
それも、ふたりきりじゃなくて…ユニちゃんの前で。

「…ユニさんの料理は、美味しい?」

…頷く。

「ユニさんのこと、綺麗だって思う?」

頷く。

「ユニさん、優しいな…って感じる?」

頷く。

「ユニさんは…夜、ソラちゃんのこと、気持ち良くしてくれる?」

……………頷く。

「なら、ユニさんと結婚するのは?」

……………。

「………」

「…ソラちゃん。ここ、おいで」

おねえちゃんが、胡坐にした足を叩いて…私を呼ぶ。
…招かれるままに……膝の上へ、ちょこん。

「…うん。相変わらず、良い顎乗せ場」

顎を私の頭の上に乗せるおねえちゃん。村でもよくされていた。

「………ソラちゃん」

「今回の旅…、リムさんの身体を治すのが目的であって…」

「ソラちゃんの身体は…治さないんだよね」

…頷く…と顎が擦ってしまうので、声でお返事。

「…考えてたんだ。ずっと。なんでかな、って」

「……んっ…」

一口飲んで……わずかな沈黙の後……続きの言葉。

「……治す、っていう考えが、そもそも間違いで…」

「ソラちゃんは、自分の身体を否定していない」

「…否定しなくなった、の方かな…。そこは分からないや」

「その身体
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