…障子窓を開くと、涼しい風が舞い込んだ。
「良いお湯でしたね」
火照った身体が落ち着いていく心地良さを感じながら、ユニちゃんの言葉に同意する。
前はゆっくり浸かることが出来なかったけれど、今回は存分に温泉を楽しめた。
身体もぽかぽか、心もぽかぽか。旅の疲れなんてどこへやら。
「二人のお薦めなだけはあるね。気持ち良かった」
おねえちゃんも満足みたい。よかった。
「ふぅ…」
溜息をひとつ、座布団に腰を下ろすおねえちゃん。
…隣の部屋の皆は、もう温泉に入ったのかな?
あーちゃんと、メディちゃん、うーちゃん、サキュさんに、リムさん。
こっちの部屋は、今入れ違いでももちゃんとドラちゃんが入りに行ってる。
…ここの温泉、結構温度高めだけど…メディちゃん、大丈夫かな…。
熱いの、全般的に苦手みたいだけれど…。
「………」
……おねえちゃんの横に、ちょこんっ。
「ん…。……ふふっ…」
………あっ…。撫でてくれた…。やったっ。
「ミーファ様、一人占めは駄目ですよ」
ユニちゃんも、隣に座って…なでなで。
私もお返しに、おねえちゃんをなでなで。ユニちゃんもなでなで。
「…ソラ様…
#9829;」
ユニちゃん、とっても気持ち良さそう。
見ている方も幸せを感じちゃうような笑顔。
私も思わず、笑顔になる。
幸せな時間…。
「……よいしょ」
空いた手を伸ばし…机の上のお酒と盃を、自身に寄せるおねえちゃん。
温泉に入る前に、おねえちゃんが宿の人に注文していたもの。
「じゃあ、ごめん。一人でいただきます」
「あ、お酌を…」
「いいよ。ありがと」
ユニちゃんの申し出にお礼を言いつつ…手酌でお酒を注ぐ。
「…んっ……」
くいっ、と…一飲み。
「…っふぅ」
そして、一息。
…すごく新鮮。
おねえちゃんがお酒を飲んでる姿、はじめて見た。
年齢的に、飲んでいてもおかしくはないけれど…意外。
……でも、かっこいい…。
なんていうか……大人、って感じがする。お酒が分かる、大人の女性。
微笑んだ表情ではあるけれど、どこか憂いを感じる様な…どう言えばいいかな…。
………どき、ってする…雰囲気を漂わせていて……。
「………」
「……あのさ」
誰とも目を会わせず、前を見たまま話すおねえちゃん。
「私、今酔ってるから…変なこと言ったら、ごめんね」
…え? もう? 一口で?
「…飲み過ぎないでくださいね、ミーファ様」
「うん…」
うん、飲み過ぎは駄目。明日も早いし。
おねえちゃんなら、そういう心配はいらないとは思うけれど…。
「………」
「………」
「………ソラちゃんってさ」
私? なんだろう?
「誰が一番好きなの?」
……………え。
「ユニさん?」
…ほんの少し、振り向く。
……目が合って、にこっ…と微笑みを返してくれる、ユニちゃん。
「それとも…ももさん、だっけ。あと、ドラちゃん?」
手に持った盃を、僅かに揺らしながら…おねえちゃんは言葉を続ける。
「…ソラちゃん」
「理由は何でもいいから、さ…」
「料理が美味しいとか…、美人だとか…、性格が優しいとか…」
「…床上手だから、でもいいんだから…」
「誰か一人に、決めてあげなよ」
……えっ、と……。
なんだろう、これ。いきなり、なんだろう。
おねえちゃん、本当に酔っちゃったのかな…?
言っている事は分かるけれど、突然過ぎて、よく分からない。
どんな思いがあって、おねえちゃんはこのお話をしているんだろう。
それも、ふたりきりじゃなくて…ユニちゃんの前で。
「…ユニさんの料理は、美味しい?」
…頷く。
「ユニさんのこと、綺麗だって思う?」
頷く。
「ユニさん、優しいな…って感じる?」
頷く。
「ユニさんは…夜、ソラちゃんのこと、気持ち良くしてくれる?」
……………頷く。
「なら、ユニさんと結婚するのは?」
……………。
「………」
「…ソラちゃん。ここ、おいで」
おねえちゃんが、胡坐にした足を叩いて…私を呼ぶ。
…招かれるままに……膝の上へ、ちょこん。
「…うん。相変わらず、良い顎乗せ場」
顎を私の頭の上に乗せるおねえちゃん。村でもよくされていた。
「………ソラちゃん」
「今回の旅…、リムさんの身体を治すのが目的であって…」
「ソラちゃんの身体は…治さないんだよね」
…頷く…と顎が擦ってしまうので、声でお返事。
「…考えてたんだ。ずっと。なんでかな、って」
「……んっ…」
一口飲んで……わずかな沈黙の後……続きの言葉。
「……治す、っていう考えが、そもそも間違いで…」
「ソラちゃんは、自分の身体を否定していない」
「…否定しなくなった、の方かな…。そこは分からないや」
「その身体
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